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after story 71

◇ 「おかえり」 「まだ起きてたのか」  深夜一時を回った時間にリビングのソファに座る佑月。須藤はネクタイを弛めながら近付いてきた。 「ちょっとそこに座って」  L字のコーナーソファ。お互いの顔が見える場所にと、佑月は須藤に座る場所を指定する。須藤は片方の眉を少し上げたが、黙って素直に腰を下ろした。 「俺が言いたいこと、分かりますよね?」 「まぁな」  しれっと答える須藤に、佑月は腹が立ったが冷静になれと自分に言い聞かせる。 「一言くらい事前に言うのが筋だと思うんですけど。勝手なことしないでくれ」 「言ったところで、お前は素直に首を縦には振らないだろが」  須藤は長い足を組み、煙草を口に咥える。火をつけ、肺に入った煙が吐き出される様を佑月は睨むように黙って見つめる。 「どうせ来年には出なければならないんだ。それが少し早まっただけだろう。何をそんなに怒ることがあるんだ」 「そうだとしても、心の準備とか、こっちには色々あるんだよ」 「お前のプライベートな時間は尊重してやる。そのために部屋も用意した。何が不満なんだ」  須藤は煙草をクリスタルの灰皿で消すと、佑月に鋭い一瞥を寄越してくる。きっと疲れもあるし、早く休みたいのに、面倒な奴だと思ってることだろう。しかしこれは後回しには出来ない。うやむやになどされたくはない。 「だからそうやって一人で勝手に決めないでくれって言ってるんだ! 一緒に住むって言うのなら尚更だ。〝俺〟を無視しないでくれ……」  佑月とて一緒に住むことが本当に嫌なわけではない。ただ自分にも意見は訊いて欲しいのだ。何も知らせず、相談もせず、佑月の意思などどうでもいいような扱いをされると、深く傷つき悲しくなるのだ。  暫く沈黙していた須藤が不意に腰を上げた。怒って部屋に戻るのかと、伝わらなかった虚無感に苛まれそうになったとき、須藤が佑月の前に立った。 「なに……」  佑月は怪訝に須藤を見上げていると、その須藤が突然スッとその場でフローリングへと片膝を突いた。

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