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after story 72

「悪かった」 「……」  須藤は佑月の両手を握り、僅かに頭を下げた。あの須藤がだ。きっと人に頭を下げたことなどないであろう男が、いま目の前で頭を下げている。佑月は俄には信じられず、言葉が直ぐに出てこなかった。それを怒っていると思ったのか、須藤は更に握る手に力を込めてきた。 「勝手なことをして悪かったと思ってる」  心から詫びていると分かる須藤の姿に、さっきまでの深い憤りが嘘のように払拭されていく。 「アンタが人に頭を下げてるの初めて見た」  佑月が少し笑うと、須藤はどこかホッとしたように握る力を弱めた。 「茶化すな。で、一緒に住んでくれるのか?」  スルスルと親指で佑月の手を撫でる須藤の表情は、仕草とは裏腹に、少し不安そうに見える。と言ってもほぼ無表情に近いが。 「これからはこういう大事なことは、事前にちゃんと話して。何でも勝手に決めないと約束てくれるなら、一緒に住む」 「あぁ、分かった」  その返事を聞くと、佑月はそのまま須藤の首筋へと抱きついた。  傲慢で人の意見など素直に聞くような男ではないが、こうして少しでも自分へと歩みよってくれることが、何よりも嬉しいと感じる。その気持ちに応えるかのように、須藤は佑月を力強く抱き締め返してきた。 「あの須藤 仁がこんなにも殊勝なんて、なんか怖い気もするけど」  そんなくすぐったい気持ちで、須藤の温かい腕の中で佑月はクスクスと笑う。 「お前の前ではただの男だってことだ」 「ただの男……そっか……」 ──幸せだ。深くそう思う。 「そうだ、仁。あの依頼料金貰いすぎだよ」 「あれは何でも屋の従業員への謝礼金だ。ボーナスでもやれ」 「あ……ありがとう」  メンバーへの謝礼金だと言われれば、もう何も言えなくなった。須藤も佑月を勝手に連れ回し、所長不在とさせた事を悪いと思っているのだろう。その気遣いは素直に嬉しかった。

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