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美しい人 4

「ええ。人は生きる為に働き、お金を稼がねばなりません。ですが、皆が好きな職に就いてるかと言われれば違うでしょう。継ぎたくもない親の後を継いだり、何となく入社してみたりと。そんな社会で生きていくのは結構息が詰まるものです。自分にとって仕事といものに、どれだけの充実感を得られるのか……。なかなか難しい事ですが、そこが大切だと思うんです。まぁ、世の中そんなに甘くないのが今の現状ですがね……」  最後は自嘲するように笑みを作る成海に、高田は首を振った。  まるで自分の考えが間違ってなどはいないと言うことを、成海が教えてくれた気がして嬉しかったのだ。 「佑月久しぶりだね」  話の頃合いを見計らって、マスターがコーヒーを二つテーブルに並べた。 「マスター、ご無沙汰してます。高田さん、こちらのコーヒーはとても美味しいですよ」  注文していないコーヒーを勧める成海に高田は少し驚く中、マスターは自慢のコーヒーを飲めと言わんばかりの視線を寄越してくる。 「あ、ありがとうございます。では頂きます」  遠慮がちにカップへと手を伸ばし、そして薫りを体内に取り込んだ。一口飲めばなるほど、深い味わいに適度な酸味。高田が好む味わいだった。マスターは高田の表情を見て、満足気に戻って行った。 「美味しいです。とても」  自然と笑みがこぼれた。 「そうでしょ? ここは知る人ぞ知るの隠れ家的な名喫茶店なんです。だからお客様もほとんどが常連さんなんです」

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