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危険な男 6

「図星か」  その台詞に佑月の顔は一気に熱を持つ。  鎌をかけられたことで、苦虫を噛み潰したような佑月の顔を見て、男は満足そうに煙草を吸い始めた。 ──最悪だ。  殴ってやりたかった。まんまと嵌まってしまった自分を。  相手の心の隙を的確に突いてくるこの男の洞察力は、恐ろしいものがある。 「USBは今何処にある」  紫煙を燻らせ淡々と本題に入る男に、特に驚きはしなかった。連れて来られた時から男たちの風貌で、なぜ自分が拐われたのかということは薄々気付いてはいた。 「……さあ?」 「あまり利口ではないようだ」  男は無表情で言い放つ。  惚けても無駄ということは分かっている。佑月の事を徹底的に、この短時間で調べた男だ。依頼人である高田の事もとうに調べているはずだ。  だからと言って、正直にUSBの在処を話す奴が何処にいるというのだ。 「あのUSBは元々、俺の元にくる物だ。それを返して欲しいのだがな」 「……断る。あのUSBメモリは俺が仕事として、依頼人から預かった物だ。依頼人の許可なく他人に渡せるはずがないだろ」  毅然として言い放つ佑月に、男は鼻で笑った。 「言っておくが、そもそもそのUSBを俺の取引先から盗んだのは、お前の依頼人とやらの連れの男なんだ。余計な事をしてくれたのはそっち側ということだ」  男は煙草を消してから佑月へと静かに視線を寄越した。  盗んだとはどういうことだと、佑月は眉を寄せたが、それは今は別問題だ。 「……そっちに事情があるにしても、俺には俺の仕事がある。先方の信用を落とすわけにはいかない」  拘束され、自由のきかない身体ながらも、男と向き合うため佑月は身体をずらした。  向き合った男の顔は、苛立ちからか整った顔が僅かに歪んでいた。 「自分の命を掛けてまで預かる意味が、あの依頼人にあるとでも思ってるのか? 既に放棄しているんだ。信用など気にする必要もない」 「命をって……放棄って……あんた俺の依頼人に何かしたのか?」  一気に血の気が引いていく。  この男はやくざではないはずだ。だが、やくざ以上に剣呑な雰囲気がある。  それだけに高田の身に何かあったのではと、危惧せずにはいられなかった。 「別に。話をしただけだ」 「話って──」 「他人の心配よりも、自分の心配をしたらどうなんだ」  そう言うや否や、男は腰を上げ元の対面するソファに腰を下ろした。すると、不意に後ろに立っていた男が、佑月の身体を引っ張り上げてきた。 「なっ……! 離せ!」  必死に抵抗するが、屈強な身体の男には枷がなくても無駄な話であった。  ずるずると引き摺り立たされ、後ろから身体の動きを封じられた。

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