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危険な男 7

 そしてもう一人の男が佑月の斜め前へと立つ。この男たちはあの男のボディーガードなのか、部下なのかは分からないが、感情っていうものが欠落でもしているかのように、表情が全くない。  まるでロボットのようだ。あの男が殺せと命じれば、淡々と(めい)を遂行するだろう。その不気味さに佑月は身震いがした。 「もう一度だけ言う。USBを今すぐ返すんだ」  男の冷たい声が佑月の脳内に響く。  緊張と恐怖で、身体の至るところで不快な汗が流れ落ちていく。佑月はカラカラになった唇を舐めてから、唾を飲んだ。 「……何度言っても、俺は依頼人の許可を得ていない限り、渡す事は出来ない」 「さっき言った事を聞いていなかったのか? 依頼人は放棄したと言ったんだが」  組んだ膝の上で男は、指をトントンと叩いている。苛立ちを抑えようとでもしているかのように。 「でも俺は直接依頼人から聞いたわけじゃない。あんたの話を鵜呑みにするなんて出来るわけがない」  そこで男は深い溜め息を吐いた。  もう完全に男の怒りを買ってしまってるだろう。佑月とて好きで買ったわけではない。  しかし、自分の目で、耳で確認しなければ、途中で仕事を放棄したことになる。こんな危機的状況に陥ってもなお、佑月の仕事に対する使命感は失われることはなかった。 「頑固な男だ……」  まるで独り言のようにそう呟いたのち、男は手下の男に視線を遣った。 「もういい。連れていけ」  男の命令に佑月の斜め前の男は、一瞬戸惑いの表情を見せたが、直ぐに短く返事をし、佑月の身体をいとも簡単に肩に担ぎ上げた。 「ちょ、おい!? や、やめろ! 下ろせ!」  暴れる佑月だったが、再び目隠しと口を塞がれてしまう。 「んー! んんー!」  まさか監禁されるのかと佑月は焦る。それならば、この場で気が済むまで殴られた方がどれだけマシか。じわじわと時間を掛けて、精神的に追い詰められるのは苦痛でしかない。 「暴れないで下さい。落とされたいのですか?」  エレベーターに乗ったのか、身体が重力の流れに乗り、下降していく感覚が分かった。  佑月を担いでる男は、一人の成人男性を担いでいるとは思えない程に涼しい口調で言う。  佑月の身長は176センチあるし、標準体重より軽いとはいえ、女ではない。それなりの重さだってある。  佑月はそのことに脱力したうえに、気も抜けてしまった。 「ぅっ!?」  急に放り込まれる感覚に驚いていると、直ぐにそこが車内だと分かる。  一体何処に連れて行く気なのか。  まさか、このまま海にでも沈められるのだろうかと、佑月には悲惨な結末しか浮かばなかった。

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