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危険な男 9
部屋に入った佑月は、スーツのポケットからスマホを取り出し、時間を確認した。
午前零時過ぎ。拐われてから約二時間程経っている。もっと長い時間に思えたが、人は恐怖に陥ると時間の感覚が鈍るらしい。
深夜という時間帯が気になったが、佑月は依頼人の名刺を見て、携帯に電話を入れた。
『……もしもし……?』
長いコールの後、警戒したような小さな声が聞こえた。
電話に出てくれたことで、どうやら最悪の事態ではなさそうだと、佑月はホッと息を吐いた。
「もしもし、夜分に申し訳ございません。私、【J.O.A.T】オフィスの成海と申します」
『あ……! 成海さん! 良かった……』
佑月と分かってなのか、安心した高田の声。だけど直ぐに受話口から、すすり泣く声が聞こえてきた。
「高田さん? どうしました?」
『う……くっ……成海さん……すみませんでした……オレ……』
「高田さん、泣かないで下さい。今は危険な状態ではないんですね?」
高田を落ち着かせようと、声のトーンを更に和らげる。
『は、はい……すみません。今は……大丈夫です』
〝今は〟の言葉で何かがあったことは、明白だった。
「……とりあえず電話に出てくれて、安心しました。高田さん、貴方は何も悪くありませんから、自分を責めることだけはなさらないで下さい」
『でも……』
高田も言わば被害者なのだ。
妙な事に巻き込まれはしたが、得体の知れないUSBメモリを預かったのは佑月だ。このまま高田を放っておくわけにはいかなかった。
「高田さん、明日仕事を休むことは出来ますか?」
『はい……。実は……仕事は暫く休もうかと思ってます』
高田の弱々しい声に、佑月はどうしようもなく不安になったが、それを悟られないよう毅然と口を開く。
「そうですか。ちょうど良かったです。……詳しい話をお聞きしたかったので、明日そちらに伺っても宜しいですか?」
『はい……。もちろんです』
そして高田から住所を聞き、通話を終えた。
高田と話をして、少し気分が落ち着いた佑月は、直ぐにシャワーを浴びた。
色々あったのにも関わらず、疲れ過ぎた身体はベッドに入ると、すぐに深く沈んでいくように佑月は眠りに落ちていった──。
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