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絶体絶命 3

■  高田の自宅であるアパートは、お世辞でも綺麗とは言えない程の年季が入ったものだった。 「うわ……俺んとこより古いな」  所々、壁が崩れてたり、蔦が這っていて、ある意味これも味があるのかもしれない。  電車に十分程乗って、駅からは徒歩二、三分。交通の便はとても良く、佑月も迷う事はなかった。  二階建てのアパートの一階、向かって左の一番端の玄関のインターホンを佑月は押した。  ドアスコープから自分の姿が分かるように、佑月は少し後ろに下がる。  スーツの内ポケットには、ずっと事務所の金庫に入ってた例のUSBメモリが入っている。それを確認するかのように胸に手を当てた時、扉が遠慮がちにゆっくりと開いた。 「あ、高田さん、こんに……」  挨拶の途中で思わず絶句する。 「成海さん……すみません。わざわざ来て頂いて……」  頭を下げる高田に、佑月は我に返った。 「いえ……それは気にしないで下さい。それより高田さん……大丈夫なんですか?」 「はい……昨日は少し熱があったんですが、今は大丈夫です」  弱々しく笑う高田に佑月の胸が痛んだ。爽やかな青年だった顔が酷く腫れ上がっている。殴られた事が明らかだった。  高田はこんなにも殴られているのに、なぜ自分はと、戸惑う気持ちが更に増していく。 「成海さん、汚い所ですが、どうぞ中へ」 「あ……はい、すみません。ではお邪魔します」  佑月は軽く頭を下げ中へと入った。  男の部屋にしては綺麗に片付けてある1Kの一室。 「どうぞ適当に座って下さい」 「ありがとうございます」  布団が外されている、こたつ机に座ると、直ぐにインスタントコーヒーのいい薫りがしてきた。 「インスタントですみません」 「いえ、ありがとうございます。インスタントはまた違った風味が楽しめて好きです」  嘘ではない本心を言うと、伝わったのか高田は嬉しそうに笑顔を見せた。だけど、その顔は直ぐに苦しそうに歪められ、高田は佑月の正面にゆっくりと腰を下ろした。  そして暫くしたのち、高田は軽く息を整えるように吐いてから重い口を開いた。 「昨日……うちの営業所は定休日だったんです。だからいつもと同じように昼は家でゴロゴロしてました」  高田は下唇を咬み、眉間に深いシワを作った。 「そんな時、突然奴らは来たんです。人の家に土足で上がり込んで、USBメモリを渡せと……」  佑月は敢えて返事をせず続く言葉を待った。 「最初は知らないって、しらを切りました。でも……殴られて……痛くて……怖くて……。成海さんには迷惑掛けたくなかったのに……」 「高田さん、それは──」 「もう……殴られる事に限界だった……。このままじゃ殺されるって……。それで、耐えきれず成海さんの事を……喋ってしまいました。オレは……最悪です……。すみません……すみません──」 「高田さん!」  すみませんと、何度も泣きながら謝る高田の手を取ると、佑月は強く握りしめた。それに驚いたように高田は顔を上げる。 「貴方は何も悪くありません。昨日そう言ったでしょ? 悪いのは貴方をこんな酷い目に遭わせた奴らです。だから、高田さんが謝る必要もありません。私は今、こうして無事でいるんですから」 「成海さん……」  高田は佑月の手を握り返し、暫く声を殺して泣いていた。

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