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絶体絶命 7
「そうか。もうアイツは死んでもいいっつうことか」
男は高田に銃口を向ける。
「や、やめろ!」
叫ぶ佑月に、男は声を殺して笑う。
「だったら、大人しく言うことを聞いてればいいんだよ。手間取らせんな」
男は佑月の髪を掴むと、自身の股間へと顔を持っていった。
「クソが……」
もう罵倒するしか手段がないのが悔しくてたまらなかった。
「そんな綺麗な顔して、汚ねぇ言葉使うんじゃねえよ。ちっと萎えちまったから、しっかりしゃぶれよ? 歯を立てたりしたら、分かってるよな?」
男はチャックを下ろし、中のモノを取り出し佑月の顔に近付けてきた。
やっぱり無理だ。男のモノを咥えるとか、無理に決まってる。
涙目になる佑月に焦れた男は、佑月の手を強引に握ってきた。そのとき。
「邪魔したようだな」
不意に聞こえてきた、この場にそぐわない落ち着いた低い声。
一瞬何が起きたのか分からずにいた佑月の横で、若頭は慌てた様子でモノをしまいこみ、チャックを上げていた。
「あ……あんた……なんで……」
酷く怯えた様子の男。
佑月は怪訝な面持ちで玄関先へと視線を遣った。そこに立っていた男を見て、佑月の目は大きく見開かれた。
「な……」
なぜこの男がここにいるのか。
佑月は更なる絶望に、その場で崩れ落ちるように座り込んでしまった。
昨日会ったばかりの男、須藤が悠々と煙草を吹かしながら立っている。
やくざらが息を詰めて緊張しているのが、佑月にも伝わってくる。
「なんだ、続きはいいのか?」
須藤が無表情で若頭に問う。
「い、いや……もう、いい」
「そうか。それは良かった」
若頭がガタガタと震えているのが分かる。曲がりなりにも、やくざで若頭という立場にいる者が本気で恐れている。須藤という男を。
その須藤がそのまま土足で部屋に上がり、こちらに近付いてくる。イギリスの最高級ブランドの、磨き上げられた靴で。
佑月はガン見していた靴から視線を玄関に向けた。そこには須藤の手下が塞ぐように立っている為、逃げられない。
どうするか逡巡していると、仄かな甘い香りを漂わせた須藤が、佑月の目線に合わせるように前にしゃがみ込んできた。
何だと声に出したかったが、喉が詰まり声が出なかった。そんな佑月の顎に須藤は手を添え、くいっと軽く持ち上げてきた。
「……っ」
「この傷」
佑月を見つめる双眸は冷たく細められていく。その目に総毛立つ思いがあったが、何故か佑月は須藤から目を離せずにいた。
「どいつがやった」
凄みを利かせた須藤の声が、静かな部屋に響く。その刹那、辺りは緊迫した空気に包まれていった。
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