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絶体絶命 10

「……何故お前がそんなに驚いている。謝れと言ったのはお前だろう」  怪訝な面持ちで須藤が言う。それに佑月は我に返った。 「た、確かに言ったけど……」  まさか本当に謝るとは思わなかった。頭は下げないし、口では謝罪の言葉を言っているが高圧的な態度。  でも偉そうで上辺だけの謝罪だったが、この男なりの誠意なのかもしれない。  最悪な事態を予想していただけに、佑月と高田は呆気に取られたように、強張っていた身体からは力が抜けていった。 「後、もぐりだが腕のいい医者を紹介してやるがどうする?」  もぐり……法を犯して、許可を受けず医療業務を行ってる医者。  そういった存在がいることは知っている。裏社会で生きる者が、目立つ怪我などを表に知られることなく、安心して治療を受けられると双子たちも口にしていたから。  だけど、医者まで紹介すると口にするこの男は、一体何を考えているのだ。佑月は猜疑心を隠さず須藤の出方を窺う。 「まあ、信用する、しないはお前らが判断すればいい」  須藤は佑月らの返事を待つようだ。煙草を咥え、火を付けている。  本当にこの男を信用してもいいものなのか。  もぐりの医者など、後で莫大な金額の治療費を請求されるに決まっている。見返りもなく医者まで紹介するなど有り得ないだろう。  しかし、高田をこのままの状態にしておくのも危険だった。現に熱があるのか、先程から高田の体が熱い。  本人の意思はどうなのかと佑月は高田を見る。すると少し迷っているような躊躇いが見てとれた。 「ちなみに治療費を気にしてるのなら、気にするな。免除してやる」  須藤は煙草を窓の外に投げながら、事も無げに言う。 「治療費も免除って……なんでそこまで……。そんなの信用出来るとでも? その医者にしたって……あんただって……」 「だからそれはお前らが判断しろと言っただろう? ただ、医者に関しては腕は確かだから信用してもいい。まあ、その程度なら腕もいらないだろうがな。後、そいつには今後何処からも危害が及ばないよう対処しよう。せめてもの罪滅ぼしってやつだ」  手下達は、主人にここまで言わせて何を躊躇うのかとでも言いたげに、佑月らに鋭い視線を投げてくる。  だが罪滅ぼしなどこの男にそのような従順な心などあるのか。  佑月は須藤の目を探るようにじっと見据えた。  嘘は無さそうな真っ直ぐな瞳。だが、何かは分からないが少し引っ掛かるものが感じられる。 「成海さん……オレ……行きます」 「た、高田さん?」  高田がふらつく身体で立ち上がるのを、佑月は慌てて支えてやる。 「行くって……本当に?」 「はい。一応診てもらうだけ診てもらおうかと思います。それに……」  高田は佑月の耳元に顔を寄せる。 「この話を反故(ほご)にしたら、それはそれでやっぱり後が恐いですから……」 「高田さん……」  本人が決めたのならば、つべこべ言っても仕方ないだろう。顔を気絶するほどの威力で蹴られたのだから、やはり医者に診せた方がいいに決まっている。そう自分に言い聞かせ、佑月は渋々と頷いた。

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