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戸惑い 2

「どういうつもりですか? 冷やかしに来たのなら今すぐお帰りください」  佑月は敢えて丁寧な口調で、出口に手を指し示した。もう二度と会うことはないと思っていた男が、なぜまた姿を現す。  USBメモリは返したのだから、これ以上須藤の仕事に佑月は関係ないはず。  困惑する佑月を須藤が何故か愉しそうに見てくる為、佑月は不愉快だということを隠さず、眉間に深いシワを刻んだ。 「そんなに眉間にシワを寄せるな。せっかくの美貌が台無しだぞ」 「か、関係ないでしょ? 放っておいて下さい!」 「まあ、そう怒るな。俺は一応客だぞ」 「なら、申し訳ありませんが、今回のこのご依頼は受け付けられません」 「客を選ぶのか? そんな余裕があるとはな」  いつまでも余裕の態度を崩さない須藤に、佑月は苛立ちを覚える。 「もちろん余裕などありませんよ。ですが、こちらもお客様を選ぶ事はあります。明らかに不審な依頼や依頼人によってはお断りしますので」  佑月のセリフに陸斗らは大きく頷く。 「なるほど。俺は不審な依頼人というわけか」  (どう見ても不審だろ)  徐に腰を上げた須藤に、双子は佑月を守るように前に立ちはだかろうとしたが、佑月は首を振り二人を制した。 「……そうですね。あんたは危険な人物として名高いですし。また妙な事に巻き込まれては迷惑だし」 「相変わらず直球で物を言うな」  愉快そうに須藤は喉を鳴らして笑う。そんな須藤に陸斗と海斗は驚いているようだ。 「だがな、成海。俺はまだお前から礼を貰ってないぞ」 「礼? 礼ならあの時言いましたが?」 「口先だけの礼ならいらない」 「……」  その台詞だけで十分だった。やはり、見返りもなく医者を紹介したり、治療費を免除したりとするわけがなかったのだ。  あの時の須藤の目に浮かんだ違和感は、気のせいではなかったわけだ。  佑月は須藤に視線をやる。傲慢な男だが、なぜか佑月には危害を加える真似はしない。  現に須藤の纏う空気が、今は無防備な程に圧を感じない。  佑月ごときに警戒する必要もないのだろうが、初めて会った時の剣呑さはまるっきりなかった。 「本当に……食事だけすればいいんですか?」 「佑月先輩! なに言ってるんですか!?」  陸斗は信じられないといった風に佑月の腕を掴む。  花も心配して佑月に駆け寄ってきた。花にとって、須藤という男が何者かは分からないはずだったが、三人の空気から決して友好的な相手ではないことは理解しているよう。 「ああ、もちろんだ。俺と飯を食うだけで金が手に入るんだ。美味しい仕事だろ?」  須藤は佑月を呼ぶように手を差し伸べる。  確かに普通に考えれば美味しい仕事だ。だが相手がこの男では、気など休まらない。しかし、須藤がこのまま引き下がるとは思えない。  また後々面倒な要求をされても困る。ただ食事をすればいい今のこの要求を飲んだ方が、まだマシかもしれない。  佑月は決意を固め、陸斗ら三人に向き合った。

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