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戸惑い 6
「なぜそんなことを気にする」
須藤の探るような目に、これ以上須藤の口から納得出来る答えが出ないだろうと判断した佑月は、俯き「いえ、別に……」と小さく溢した。そんな佑月に須藤は「変な奴だ」と笑い、煙草にまた火を付けた。
しかし『無駄だとも思ってない』と須藤は言ったが、やはりあれはどう考えても無駄な行動だ。須藤ほどの男が、自分ごときに時間を割くなど、どう考えても可笑しい。
一旦解放して、恐怖で脅える佑月を見て、楽しむという趣味の持ち主ならまだしも。そういう類いの人間には見えないし、それに一番の理由として、高田の家では形はどうであれ佑月らを救った。考えれば考える程に訳が分からなくなり、それが煩わしくなる。
(はぁ……終わった事を気にするなんて俺らしくもない。考えるのはやめだ)
思考を追い払うように、佑月は酒を一気に煽った。須藤は食後のデザートである柚子のシャーベットにも手を付けず、咥え煙草でネクタイを僅かに弛めている。
その仕草を見て、佑月は何だか少しの敗北感を味わう。男から見ても、この須藤という男は素直に魅力的な男前だと言える。
自分のような半端な若造とは違い、大人の魅力と野性味を帯びた雄の濃艶さは、この男しか出せないだろう。それがまた悔しくて、佑月は次々と酒を注いでは飲んだ。
「おい、飲み過ぎだ──」
「あんたは何で今回こんな依頼を寄越したんだ? 見返りを求めたにしても、男二人で飯食っても楽しくないでしょうが……」
酔いが少し回ったのか頬が熱く感じる。
一升瓶を空けてしまいそうな勢いの佑月に、須藤は眉を寄せていた。
「おい、成海。いい加減にやめておけ」
グイグイと気持ちよく飲んでるのに、佑月は須藤にお猪口と酒瓶を取り上げられる。
「あ! 何するんだよ……!」
須藤を睨んでみるが、この時の佑月には上手くやれているかは疑問だった。
(ん……あれ? なんか……頭がクラクラするかも……)
酒は決して弱い方ではない。
だが、素面 でこの男と対面するのは若干辛かったため、佑月はほぼ空きっ腹の状態で酒を流し込んでいた。
そのツケが回ってきたようだ。
須藤は軽く溜め息を吐いてから腰を上げた。そんな須藤を佑月は呆けた顔の目で追う。
「ほら、もう帰るぞ」
佑月の傍へと回ってきた須藤が、佑月の腕を掴んで立たせたが、酔いのせいでふらついた。
「あ……」
直ぐに須藤が佑月の身体を支えてきた。その腕があまりにも逞しかったために、自分がひどく弱いものに思えた。
「……す、すみません……もう、大丈夫だから」
須藤の胸に手をついて離れようとすれば、いきなり須藤は佑月の腰を抱き寄せてきた。
「な、何するんだよ……離せよ」
「厄介だな、お前は」
「は? 何……言ってるんだよ……」
やや呂律が怪しいながらも、精一杯虚勢を張るが、身体にも力が入らず睨むだけに終わる。
「厄介だと言ったんだ」
「……」
だから何が厄介なんだよと佑月は睨むが、須藤は気にすることもなく、睨む顔をじっと見てくる。
そして、徐に須藤は佑月の頬に手を添えてきた。その熱い手は、佑月の頬よりも熱く感じた。
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