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戸惑い 7

「いい加減にしろよ……。厄介なら俺に関わらなかったらいいだろ」  須藤を力一杯押すと、すんなりと須藤は離れた。 「そう言う意味じゃない。お前……他の男と酒を飲むな」  カチンときた。酔ってるせいもあって、佑月は感情のコントロールが出来ない。 「なんであんたに俺のプライベートの事にまで口挟まれなきゃならない! 関係ないだろ!」  そう言い捨てると、佑月はふらつく足で部屋を出た。  気分が悪い。須藤の言動が理解出来ない。きっと酒のせいだ。あんなに飲むんじゃなかった。苛立ちと酒のせいで涙が出てきそうなのを、必死に耐えた。 「おい、成海。待つんだ」  外に待機している高級車。素通りする佑月の手を、須藤は素早く掴んできた。 「離して下さい……。もう、放ってもらえませんか? 帰りたいので……」 「何言ってるんだ。そんなフラフラな状態のお前を、一人で帰せる訳がないだろうが」  須藤の手を振り払おうと躍起になっている佑月に対し、須藤の手は離すまいと力を加えてくる。 「大丈夫ですよ、これくらい。離して下さい」 「駄目だ。乗れ。依頼料いらないのか? まだお前の仕事は終わってないぞ」  その言葉に佑月は動きを止める。 「終わってないって……もう食事は済んだ──」 「お前を家まで送るところまでが、今日の依頼だ」 (はぁ? そんなこと一言も言ってなかっただろうが)  しかし、この男は断固として自分の意見を曲げることはしないだろう。ここまで来て依頼料が入らないのは、かなり痛い。  佑月は諦めの溜め息をついた。 「分かりました……」  佑月の為に開け放たれたドアから、しぶしぶと車内へと身を滑らせた。  心地よい振動が、酔った佑月に睡魔が襲う。こんな所で寝るわけにはいかず、佑月は必死に眠気を堪えていた。 「まだ暫くかかる。我慢せず寝たらどうだ」  須藤が何やらリモコンらしき物のボタンを押すと、運転席と後部座席との間に可動式のシャッターのようなもので、仕切りが出来た。そのせいで急激に上がる密閉感。 「……いえ、大丈夫です」 「遠慮すんな」  遠慮をしてるわけではない。車に乗せてもらってる立場云々、こんな……まさに猛獣の檻に放り込まれた状況だというのに、安心して眠れるわけがない。 「心配しなくても何もしない」 「わ、分かってます」  それはどういう意味なんだと、佑月はこっそりと、ドアに左半身を目一杯押し付けた。  隙あらば、海にでも沈めるつもりなのか。  佑月は余計不安になり、眠気を覚ますように眉間を指で揉んだ。 「寝ないのなら、少し話でもするか?」  (かたく)なな佑月の姿に須藤は苦笑を浮かべ言う。 「……話?」 「あぁ。話をすれば、まだ眠気も紛らせる事も出来るだろう?」 「……」  佑月の思考は一瞬止まってしまった。

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