41 / 444

戸惑い 8

 須藤と会話? 何を話すというのか。  今日の天気や、社会状況等の話でもするのか。まさか、闇社会のことか?  いやいや、それはないなと佑月は思わず想像してしまい、そんな自分にゾッとする。 「お前、女はいるのか?」 「は……?」 「女だ」  まさかの恋バナに、佑月の顔が一瞬間抜け面になってしまう。そして佑月は眉をしかめ、須藤へと顔を向けた。 「……俺のこと徹底的に調べたんでしょ? だったら聞かなくても分かってるはずです」 「まあな」  質問しておきながら、しらっと答える須藤に佑月は唖然としてしまう。 「交際歴も少ないようだしな」 「……ほっといて下さいよ」 「なんだ、図星か」 「……」  なんだか色々と突っ込むのがめんどくさくなった。これでも佑月は健全な二十五の男子だ。ゆえに女性は普通に好きだ。  でも昔から『成海くんを連れてると鼻が高い』など言われる事が多く、恋愛には積極的になれないでいた。  そもそも、恋愛は数じゃない。この男みたいに毎日違う女を取っ替え引っ替えなど、最悪ではないか。  ゆっくりと温めて育てていくのが愛ってものじゃないのかと、偉そうな事を思っているが、佑月自身燃え上がる程の恋愛はしたことがなかった。 「しかし、お前が女を抱いてる姿が想像出来んな」 「……は!? いきなり何言って……」  頼むから想像などしないで欲しい。  酒のせいで熱い顔が、更に熱くなった感じがして、顔を隠すよう佑月は窓を向いた。 「どうせ淡白なセックスしか、したことがないんだろう?」 「……」 「女をちゃんと悦ばせてやったのか?」 「……」 「マニュアル通りでは、相手はつまらんぞ」 「さっきから何だよ! 俺のを見たことあるのか!?」  言いたい放題の須藤をキッと睨み付けると、須藤は愉快そうに口の端を上げた。 「やっとこっちを見たな」  しまったと今更顔を背けるのは子供のような気がして、佑月は長い息を吐き出して堪えた。 「俺をからかって楽しいですか?」 「別にからかってなどいないが?」 「そうですか? 俺からしたら楽しんでるようにしか見えないけど」 「まぁ、お前と話すのが楽しいから、そう見えるのかもな」 「……」  (何を言ってるんだ、この男は……)  どこでそのように感じたのか。妙に話しかけてくるとは思ったが、まともな会話になどなっていない。  須藤は変な男だ……。 「どうした? 顔が赤いぞ」 「っ! こ、これは酒のせいですよ」 「ふぅん」  何が『ふぅん』なのか突っ込みたくなる。  からかって、おもいっきり楽しんでるのが分かるほどに、須藤の顔はニヤけていた。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!