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戸惑い 8
須藤と会話? 何を話すというのか。
今日の天気や、社会状況等の話でもするのか。まさか、闇社会のことか?
いやいや、それはないなと佑月は思わず想像してしまい、そんな自分にゾッとする。
「お前、女はいるのか?」
「は……?」
「女だ」
まさかの恋バナに、佑月の顔が一瞬間抜け面になってしまう。そして佑月は眉をしかめ、須藤へと顔を向けた。
「……俺のこと徹底的に調べたんでしょ? だったら聞かなくても分かってるはずです」
「まあな」
質問しておきながら、しらっと答える須藤に佑月は唖然としてしまう。
「交際歴も少ないようだしな」
「……ほっといて下さいよ」
「なんだ、図星か」
「……」
なんだか色々と突っ込むのがめんどくさくなった。これでも佑月は健全な二十五の男子だ。ゆえに女性は普通に好きだ。
でも昔から『成海くんを連れてると鼻が高い』など言われる事が多く、恋愛には積極的になれないでいた。
そもそも、恋愛は数じゃない。この男みたいに毎日違う女を取っ替え引っ替えなど、最悪ではないか。
ゆっくりと温めて育てていくのが愛ってものじゃないのかと、偉そうな事を思っているが、佑月自身燃え上がる程の恋愛はしたことがなかった。
「しかし、お前が女を抱いてる姿が想像出来んな」
「……は!? いきなり何言って……」
頼むから想像などしないで欲しい。
酒のせいで熱い顔が、更に熱くなった感じがして、顔を隠すよう佑月は窓を向いた。
「どうせ淡白なセックスしか、したことがないんだろう?」
「……」
「女をちゃんと悦ばせてやったのか?」
「……」
「マニュアル通りでは、相手はつまらんぞ」
「さっきから何だよ! 俺のを見たことあるのか!?」
言いたい放題の須藤をキッと睨み付けると、須藤は愉快そうに口の端を上げた。
「やっとこっちを見たな」
しまったと今更顔を背けるのは子供のような気がして、佑月は長い息を吐き出して堪えた。
「俺をからかって楽しいですか?」
「別にからかってなどいないが?」
「そうですか? 俺からしたら楽しんでるようにしか見えないけど」
「まぁ、お前と話すのが楽しいから、そう見えるのかもな」
「……」
(何を言ってるんだ、この男は……)
どこでそのように感じたのか。妙に話しかけてくるとは思ったが、まともな会話になどなっていない。
須藤は変な男だ……。
「どうした? 顔が赤いぞ」
「っ! こ、これは酒のせいですよ」
「ふぅん」
何が『ふぅん』なのか突っ込みたくなる。
からかって、おもいっきり楽しんでるのが分かるほどに、須藤の顔はニヤけていた。
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