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戸惑い 10
しかしこの【J.O.A.T】を立ち上げた時、陸斗ら三人は、そんな佑月の方針でも一緒についていくと言ってくれたのだ。
学生時代、佑月を支えてくれた人がいた。その人たちの笑顔や温かさは、佑月を随分と救ってくれたものだ。だから、こんな自分でも人の役に立てる仕事に就きたかった。
現に満足して喜んで下さったお客様の笑顔は、達成感と充実感を得られた。
自分のわがままで三人に甘えた形になり、満足いく給料もあげられていないのは、自分でもどうかと思うが。
だが、最近では皆の努力が功を奏して、未払いといった依頼者は無くなった。無くなったが、須藤の言う通り赤字には変わりない。
「……そ、それでは、本日のご依頼、誠にありがとうございました」
嫌な空気を断ち切るように、佑月は須藤へと身体を向けて頭を下げた。
顔をゆっくり上げると、須藤と目が合う。
だが、その目が何か不満そうな色をしていた。
「どうか……されました?」
佑月は思わずそう訊いていた。放っておけば良かったのに。
「まだ満足していない。と言ったら?」
「……っ!」
どういうことか訊ねる暇もなかった。
須藤に腕をおもいっきり引っ張られたと思った時には、唇に何か温かいものが触れていた。
それが須藤の唇だと理解するのに数秒掛かった。
「んんーー!!」
何をしてるんだと、必死に足掻けば足掻くほど、須藤による締め付けは大きくなる。
しまいには、須藤の大きな手で後頭部を掴まれ、顔を振ることも困難になってしまう。
歯を食いしばる暇もなく、肉厚な猛獣が佑月の口内を蹂躙し始めた。
「ん……っ……んん」
生理的な涙が目尻に溢れてくる。佑月の意思など全く関係ないと言った須藤の舌は、口腔内を隅々まで犯していく。
上顎を擦られた時、腰の辺りが何か疼くのが分かった。
正直佑月にとって、こんなキスは初めてだった。今まで女の子にしていた自分の拙さを、思い知らされるような。
だがこれは勘弁して欲しかった。相手は男。しかも絶対に関わりたくないような苦手な男。
それなのに佑月は今、苦手な男にキスなどされている。
「ん……ぅ……」
長いキスのせいで酸欠状態になり、口の端からは唾液がこぼれ落ちる。しかも身体の締め付けのせいで余計に苦しい。
頭がボーッとしてきたせいで、佑月の強張っていた身体からは力が抜けていった。
その変化に気付いた須藤の締め付けが僅かに緩む。舌もそれに連動するように、奥から少し浅いところまで引かれた。
その瞬間を逃さず、佑月は須藤の肉厚な舌を強く噛んでやった。それなのに須藤はピクリと少し反応しただけ。
そして、最後の仕上げとでも言うように、血の味がする口内で、佑月の舌を強く吸ってから唇を離していった。
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