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戸惑い 12
■
「はぁ……」
もう何度目の溜め息だろうか。
紙切れを丸めてはシワを伸ばす。佑月はずっとこんなことばかりしている。
「佑月先輩……。ほんと何があったんです?」
「え……?」
佑月の呆けた顔を見て、陸斗と海斗は自分のデスクに座りながら、心配そうに眉を寄せている。
(あれ?)
二人の心配を余所に、佑月は不意に浮かんだ疑問を優先する。
「なぁ、花ちゃんはどうしたんだっけ?」
「……」
「……どうかした?」
なんとも複雑そうな顔で、お互いそっくりな顔を見合わせている。佑月は首を傾げてそんな二人を見る。
「佑月先輩……その質問、もう五回目ですよ?」
「……え? 本当?」
「はい。なぁ?」
陸斗が海斗に同意を求めると、海斗は佑月を見てしっかりと頷いた。
「なんか、須藤との食事の依頼から変すよ? ちなみに花は高校ん時のツレの依頼に出掛けてますよ」
「そ、そっか……そうだったな。ごめん」
(ちょっと……いや、かなりヤバいかも。しっかりしろよ俺。こんなことでは、仕事でミスしてしまう)
項垂れるように机の上で頭を抱えた。
そう、あの忌々しい依頼から三日。佑月はずっと須藤の依頼料金の件で、電話をするかしないかで頭を悩ませていたのだ。
須藤は満足していないみたいな事を言っていた。そして佑月はキスをされたわけだが。
本来なら、満足いかなかった分は割り引いた料金を客と相談をする。だがその電話をするのが嫌なのだ。
自分の感情だけで仕事をちゃんと全う出来ないのは、これまた経営者失格だ。分かっているのだが、今はあの男の声さえも聞きたくなかった。
「佑月先輩」
頭上から降る声に佑月が顔を上げれば、陸斗と海斗が傍まで来ていた。
「顔色が悪いですよ? 今日は特に依頼も入ってないですし、家でゆっくり休んだらどうですか?」
陸斗の心配が滲む声に、佑月はハッと我に返った。いつまでも二人に心配を掛けるなど、上司として最悪だ。
「ごめん、心配かけて。大丈夫」
佑月は勢いよく立ち上がり、元気アピールの為に、軽い伸びをしてからコーヒーを淹れた。
「すみません、ありがとうございます」
二人にはお茶をだして、自分のデスクに座る。双子はそんな佑月の動作をずっと見ていたが、それには気付かないふりをした。
そして佑月はあの日からの疑問の答えを知りたくて、双子に口を開く。
「あのさ……」
「何ですか?」
双子の仲の良い二重奏は、相変わらず息もピッタリだ。
「いや……その……あいつってさ……」
「あいつって誰っすか?」
しどろもどろな佑月に、間髪容れず海斗は怪訝そうに問う。
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