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戸惑い 13
「……須藤のことなんだけさ……その、あいつって、ホモ……なのか?」
「佑月先輩!」
二人はまたしてもハモりながら、佑月のデスクまでどかどかと歩いてきた。
「な、なに?」
「やっぱり、何かされたんですか!?」
正面に立った二人は、仲良く同時に両手を机につき、身を乗り出してきた。
「い、いや、何もされてないよ? ただ、やたらとスキンシップっていうのか……普通男相手だとしないし、どうなのかと思って」
キスされただなんて口が裂けても言えない。 知られたくもない。
そんな佑月の思いを余所に、双子は疑り深くジッと佑月を見据えてくる。
「触られたんですか?」
陸斗が少し怒ったように言う。
やはり、こんなこと訊かなければ良かったと後悔し始める。
「触られたって言うか……ほら、何て言うのか、俺を女とでも思ってんのか、エスコートなんかしてきて……。普通男にはしないだろ?」
「そうですね……普通男にエスコートなんてしませんね」
陸斗の声が怖い。
「だろ? だから、男が好きなのかと思って……」
でも確か以前に海斗は、須藤は毎日違う女を連れていると言っていた。
女好きの最低男だと思っていたのに、なぜ須藤は。 嫌がらせをするにしても、普通男にキスなど出来るものなのか。いや、出来ないだろう。
「須藤はホモっていうか、バイっていうのか、とりあえず綺麗なものが好きなんすよ。それが人であろうが、物であろうがです」
海斗の説明に思わず眉が寄った。
「だから男であろうと、綺麗で須藤の好みなら、確実に狙われますね」
「……」
綺麗なら男も狙うなど、どこまで最低なのか。
情人か何かにするつもりなのか。冗談ではなかった。 あんな男地獄にでも落ちたらいいと、佑月は内心でおもいっきり毒づいた。
「佑月先輩、くれぐれも須藤には気を付けて下さい。こう言ってはなんですが、佑月先輩は須藤のタイプの中でも、ど真ん中なんですから」
陸斗の言葉に佑月は軽いめまいを覚える。
「大丈夫だって。もう須藤とは会うことなんて──」
「失礼します」
客が来たのだと、佑月は素早く腰を上げ、双子は入り口へと身体を向けた。
だが佑月は訪れてきた眼鏡の男を見て、咄嗟に机の陰に隠れてしゃがみこんでしまった。
(待て待て。 あの眼鏡の男知ってるぞ。嫌と言うほど知ってる。 一体何しに来たんだよ)
「何かご用でも?」
陸斗の冷たい声がした。
「貴方に用はありません」
それを一蹴する感情の籠らない眼鏡男の声。
「勝手に入らないでもらえますかね」
海斗も応戦するが、眼鏡男はもう答える気がないのか声が聞こえない。
その代わり、コツコツと小気味良い靴音が近付いてくるのが分かった。
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