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戸惑い 15

 須藤のことだけでも、記憶から消えてほしいものだ。 「そういうことでしたら、オレがお伺いしますから、須藤さんあちらのソファにお願いします」  陸斗が精一杯、平静を装って言ってくれたが、須藤は陸斗を一瞥すらしない。 「須藤さん」  焦れたように陸斗が言うが、須藤は「成海」とその声を遮った。 「これはお前の仕事だろ。それを責任転嫁するつもりか?」 「っ……」  ガツンときた。まるで金づちで頭を殴られたかのような。 「……そうですね。私の仕事です。申し訳ありません。陸斗お茶の用意をお願い」  佑月は素早く腰を上げ、陸斗に指示を出す。 「え……でも」  納得いかないといった顔の陸斗を、海斗が腕を引っ張って給湯室へと入っていった。  そんな二人に佑月は胸中で詫びた。  須藤の言うことは悔しいけど至極最もなことだ。 プライベートならまだしも、これは仕事だ。 自分の取った対応を恥ずかしく思う中、それを須藤に言われてしまうなど、最悪な気分だった。 でも人間出来てないとはいえ、大人げなかったとは佑月も思った。 「どうぞ、お掛けください」  未だ佑月の事務机の傍に立ってる須藤に座るよう勧めると、須藤はゆったりとした足取りでこちらに来る。  そして一旦佑月の顔を見て、フッと笑みを見せてから腰を下ろした。  それはまるで〝良く出来ました〟と言わんばかりの笑みだった。 佑月は余計な感情を押し込め、須藤に対応する。 「今回はわざわざありがとうございました」  金を受け取り、佑月は須藤に頭を下げた。  色々思うところはあるが、全て水に流そう。そして、本当にもう忘れてしまうのだ。 「ところで、成海」  須藤は長い足を組み換え、煙草に火を付けた。 「何でしょうか? て言うか、ここは禁煙です」 「……そうか、それは悪かった」  後ろに立っていた眼鏡男から携帯灰皿を渡されると、須藤は付けたばかりの煙草の火を消した。 相変わらず変なところで素直な男だ。 「それでお前、今度の水曜日の予定はどうなってる?」 「……予定……ですか?」  なぜそんなことを訊くのか。佑月の手元には予定表がないから、直ぐには思い出せないが、それよりも嫌な予感しかしなかった。 「あー……水曜は1日依頼が入ってますね」  しれっと佑月は嘘をついた。 「違う。夜だ」 「は? 夜?」  ずっと佑月らのやり取りを見ていた双子は、同時にガタリと音をたて事務机から立ち上がった。  何やら焦った様子の双子を尻目に、須藤は「仕事が終わったら飯行くぞ」と事も無げに言う。 「佑月先輩!」  ついには双子は我慢出来なかったのか、佑月の傍まで駆け寄ってきた。

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