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戸惑い 16
佑月が双子に落ち着けと目配せをすると、海斗は頷いたが陸斗が不満そうに眉を寄せていた。
昔から佑月に何かあると、佑月以上に二人は感情を表に出す。 特に陸斗は普段は海斗よりもクールだが、こういう時はそのクールさが剥がれ落ちる。
佑月が陸斗にもう一度笑みを向けると、陸斗は渋々といった感じだが頷いた。
そして佑月は短く息を吐いてから、須藤に向き合った。
「須藤さん……はっきり言わせてもらいますが、俺は貴方とは関わりたくないんです。だから、もうここにも来ないで頂きたいです」
相手は大物だ。 そんな男の自尊心を傷付けることを言えば、佑月など一瞬で潰されるだろう。
だがそれでもこの男と深く関わることが嫌だった。 やっと手に入れた平穏を壊されたくないし、何かは分からない底なしの沼にはまって、抜け出せなくなるのが怖かったのだ。
「それは無理だ成海。諦めろ」
「は……? 佑月先輩は関わりたくないって言ってるんです。諦めるのは貴方ですよ!」
「そうっすよ!」
双子が佑月の後ろから声を荒らげる。
それは、どういう意味なのか。歯向かった佑月を追い詰めるということなのか。それとも須藤の情人の真似事でもしろと言う意味なのか。
どちらでも最悪ではないか。
「……これ以上は話にもならないでしょうし、お引き取り願えますか?」
佑月が溜め息混じりにそう言うと、須藤は「そんなことを言っていいのか」と返してきた。
「……どういう意味ですか?」
眉を寄せる佑月に、須藤は口の端をゆっくりと上げる。 そして唇の隙間から、チラリと覗かせて見せられた赤い舌。
その瞬間、佑月の鼓動は大きく跳ねた。
「この間の傷がまだ痛むんだがな」
「なっ……あれは……」
カッと顔に熱が集中する。
無理矢理したくせに、何をぬけぬけとこの男は言うのか。
「この間の傷? なんのことですか?」
陸斗が佑月の肩を持って顔を覗いてくる。
「な、何でもないよ」
すぐさま佑月は顔を逸らした。
「どうした成海。顔が赤いぞ」
「っ!」
(バ、バカ、何言ってんだコイツ)
佑月が涙目で須藤を睨むと、そこには憎たらしい程に愉快そうな表情 をした須藤がいた。
「そんな色っぽい顔で睨むな。あぁ、この間の夜のことを思い出し──」
「わ、分かりました! 今度の水曜ですね! 空けておきますよ」
(おい! 二人が勘違いするような言い方をやめてくれ。もう……ほんとこの男イヤだ)
双子の視線がチクチクと佑月に刺さる。
最初から佑月に余裕などないが、その小さな余裕さえも根こそぎ剥ぎ取って、自分を追い詰めてくる須藤。
この男は卑怯だ。 悪いのは須藤だというのに、人の弱みにつけこんで、何でも思い通りになると思っている。
それにまんまと翻弄される佑月も佑月だったが。
悔しさに拳を握りしめ、佑月は満悦に目を細める須藤を睨むことしか出来なかった──。
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