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Camouflage

◇  梅雨入りしたとテレビで報じていた通りに、空には今にも降りだしそうな鈍色の雲が支配している。 佑月の心も曇っているのかと言われると、そうでもなかった。 「成海さぁん、これなんかどうです?」 「うん、いいね」  周りの客や店員の視線なんてものも気にならない程に、佑月は今テンションが高い。 須藤のことなんかも頭に過らないほどに。 「成海さんこういうの好きですもんね!」 「うん。花ちゃんはこっちだよね」 「そうです! 覚えててくれて嬉しいです!」  二人で顔を見合わせては、ガラスケースの中に綺麗に陳列された物を見て幸せな気分になる。 この時ばかりの佑月はまるで女子だ。 「よし、じゃあ、このモンブランとプレミアム苺のショートと濃厚ショコラとフルーツタルトは二個下さい」 「かしこまりました」  女性店員はにっこりと微笑んでから箱に詰めてくれた。  そう、佑月は甘い物に目がない。 特にケーキといった洋菓子が好きで、ショコラは断トツに佑月のハートを鷲掴みにするのだ。 「成海さんありがとうございます! 嬉しいです!」 「いやいや、付き合ってもらったのは俺だしね。こちらこそありがとう」  突然甘い物が食べたくなって、買いに行こうとした佑月に花が付いてきてくれた。 正直、一人で行くよりも大分と気持ちが楽なのは否めない。 「それにしても、相変わらず女の子たちの視線凄かったですね」 「……うん。いい歳した男が、ケーキを真剣に悩んでる姿はちょっと異様かもしれないしね」  佑月は今になって恥ずかしくなってくる。 「違いますよ! みんな成海さんに見惚れてたんですよ! あの店員だってずっと目をハートにして、成海さんに釘付けになってましたもん」 「え? あぁ……そうだったんだ。気づかなかった」  花の勢いに圧倒されて、佑月は思わず苦笑いに。 自分の容姿が目立つのは、幼少の頃からの色んな経験で理解はしている。 小、中学の時はそういった視線が嫌で仕方なかったけど、何時しか気にしないようになっていた。  外に出れば見られるのは避けようもないことだから、諦めたって言った方がいいのかもしれないが。 「こうやって二人で歩いてると、私たちってカップルに見えるんでしょうか?」  少しはにかんで言う花は、佑月の顔をくりっとした大きな目で見上げてきた。 「うーん……どうだろね。見る人によって違うかも」 「どういうことですか?」 「例えば、この距離感」  二人並んで歩いてるが、微妙に二人の間には開きがある。 「確かにカップルなら、もう少し近いかもですね」 「うん。俺たちのような若い年齢だと、余計にその距離感が目立つかも。それに、俺がスーツで花ちゃんはカジュアルな服装なのもデートにしては違和感あるし。そうは言っても、これも人によって捉え方はそれぞれだからね」

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