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Camouflage 2
「確かに……」
花は納得したように、顎に手をやり頷いている。
「じゃあ、手を繋げば百パーセントカップルに見えますよね!」
「まぁ、そうだね。今はカップルに見えない俺たちが、ここで手を繋ぐと、ほとんどの人がカップルって認識するかもね」
「一つの行動を加えることで周りの認識が、ガラッて変わるのって面白いですね」
「うん」
認識の違いなど人それぞれだし、百パーセントと言い切ってしまうのは少し乱暴かもしれない。 だが、なんでも数字できっちりと表してしまうのは、面白くないのかもしれない。
お喋りが好きな花との会話は途切れることなく、事務所に着いた。 着いた途端に雨がパラパラと音を奏で、二人は顔を見合わせて笑った。
「スゴい! 私たちってめちゃツイてますよね」
「だね。打たれなくて本当良かった」
話ながら事務所内に入ると、客が来ているのか、陸斗が来客用ソファに座っているのが見えた。 配慮のため、入り口からお客様の姿だけ見えないように衝立を置いているのだ。
佑月たちに気づいた陸斗は、客に断りを入れてから何やら困った様子で佑月の元に来た。
「どうかした?」
まだ見えぬ客の方を見てから佑月は陸斗に訊ねる。
「それが……恋人と別れさせて欲しいっていう男性からの依頼なんですが……」
「なに? なんか問題でも?」
三人でこそこそと内緒話をする輪の中で、花が小さな声で問う。 陸斗は花に曖昧に頷いてから佑月に視線を戻した。
「それで恋人のふりをして欲しいってことなんですが……。詳しい事を聞こうとしたら、何か言いにくいことでもあるのか、急に黙り込んでしまって……」
「そうか……分かった。俺が聞くよ」
「本当ですか? ありがとうございます」
陸斗は目に見えてホッとした顔を見せた。 こういう繊細で私的な依頼は、途中で躊躇したり止めたりする客もいるから、珍しいことでもない。
「花ちゃん、悪いけどこれ冷蔵庫に入れておいて」
「はい」
花にケーキの箱を預けて、佑月は待たせたままの依頼客の元へと足を運んだ。
「お待たせいたしまして、申し訳ありません。ここの所長をしております成海と申します」
依頼客に頭を下げて顔を上げたとき、驚いたようにも見える複雑な顔で、依頼客は佑月の顔を見ていた。
「……あ……所長さん?」
「はい」
笑顔で答えると、依頼客がホッとしたかのように肩の力を抜いたのが分かった。
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