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Camouflage 3

 ペコリと頭を下げた依頼客の名前は、松本 学と、書類に陸斗の文字で記されているのが見えた。  本名かどうかはさておき、佑月はソファに腰を下ろしながら、松本の全身にサッと視線を走らせた。  歳は二十代前半くらいか。とにかく肌が綺麗だ。  だが、長い前髪を全部下ろしてるせいで重く見え、眼鏡も掛けているため表情がよく分からない。 とても大人しそうな男に見える。  そしてサラリーマンかどうかは不明だが、スーツを身に付けている。 妙にそわそわしているのは、緊張でもしているのかもしれない。  花が依頼客の冷めたコーヒーを下げ、新しいコーヒーを置いてから、佑月の前にもコーヒーをそっと置いていく。依頼客は恐縮したように、花に軽く頭を下げた。 「えと、それでは松本さん……で宜しいですね」 「あ……はい」  松本はやや俯いた状態で、小さな声で返事をする。 「本日のご依頼は、恋人と別れさせてほしいとの事ですが、何か困った事などでも遠慮なく申して下さい。貴方のプライバシーは尊重しますし、侵害するといったことも決してしませんので、ご安心ください」  語調を和らげ、相手が話しやすい雰囲気をつくってあげると、大抵は重い口を開いてくれる。 「では、お話出来るところまでで結構ですので、お聞かせくださいますか?」 「……はい、ありがとうございます」  顔は相変わらず俯いたままだが、期待通りに松本は、決意したように呼吸を整えるように短く息を吐き出していた。 「その……恋人というのは……男……なんです」 「そうなんですね」  そう佑月が答えると、松本は驚いたように顔を上げた。  眼鏡の奥の一重瞼の目がくっきりと大きく見開かれ、初めてまともに男の顔を見れた気がした。 意外とは失礼だが、思っていたよりも整った顔立ちをしている。 「……驚かないんですか?」 「いえ、正直少し驚いています。ですが、言いにくい事を告白してくださって嬉しいですよ。それに、それ以上に困った事があって、わざわざうちへ訪ねて下さったんでしょ? 我々に解決出来ることなら尽力いたしますので、遠慮はなさらずに」 「はい……」  松本は嬉しそうに、震える唇を噛み締めていた。  佑月は同性愛者に偏見はない。 人の恋愛はそれぞれだし、それが社会で認められていようがいまいが。 だがそれが自分にふりかかると困るわけだが。  須藤のような傲慢男は特に。  またしても浮かんでしまった迷惑な男を排除するべく、ポツリポツリと話し始めてくれた松本の言葉に佑月は耳を傾けた。  松本の話では、今の交際相手とは一年前に出会って付き合いを始めたのだが、ここ二ヶ月程前から相手が突然SMに目覚めたようで、それを強要されて困っているとのことだった。  やめるように言っても相手は聞かず、更に行為は酷くなるばかりだそうだ。 「だから……好きな人が出来たから別れてほしいって言ったんですが……」 「聞いてはくれなかったんですね?」 「はい……」  それは確かに困った事だ。 相手の嫌がる事をするのは、特にSMプレイなんてものは暴力と同じだ。  現に、プレイで付いた傷かは不明だが、松本の首には包帯が巻かれていた。

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