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Camouflage 5
今日は依頼があれから三件入り、本日の営業は終了となった。
「そう言えば、今日は須藤さん来なかったですね」
「え……?」
花が帰り仕度をしながら言った言葉に、何故か佑月の心臓が僅かに跳ねた。
「ほら、いつも水曜日は終業時間の三十分前になったら、成海さんを迎えに来てたじゃないですか」
「来なくて良かったじゃねぇか、須藤なんて」
海斗が憎々しげに吐き捨てる。
そう言えば今日は水曜だったか。佑月は須藤の事を考えないように、依頼の書類をパソコンに打ち込む事に、集中しようとするが……。
「えー……でも私、最近じゃ須藤さん嫌いじゃないよ? だって超美形だし。ちょっと冷たそうだけど、落ち着いた雰囲気なんて大人で素敵だもん。それに、何て言うのか成海さんしか眼中にないところとか最高じゃん!」
「お前……頭沸いてんな」
「何よ! 海斗もちょっとは須藤さん見習ったら?」
「は? なんでオレが須藤を見習わなきゃならねぇんだよ」
(……花ちゃん。 それはどういう意味で言ってるのかな? )
考えないようにしても、嫌でも耳に入ってしまう二人の会話。
佑月しか眼中にないとか、何か大きな勘違いをしているとしか思えない。
(……ん? 勘違いなのか? あれ? なんかワケが分かんなくなってきた)
「佑月先輩」
「ん、何?」
海斗らの輪に入ってなかった陸斗が、パソコンの画面に集中しようとしている佑月に声を掛けてきた。
「本当はどうなんですか」
「何が?」
「須藤のことです」
「え!? す、須藤? あっ……」
せっかく打ち込んだものを消してしまった。
なぜ須藤の名前くらいで、いちいち過剰に反応しているのか。
画面を見て半泣きの佑月が顔を上げると、そこには怖い顔をした陸斗がいた。
「……陸斗? どうした? 顔が怖いぞ」
「やっぱり脅されているんでしょ?」
「脅され……?」
「そうでしょ? じゃなかったら、なんで先輩は須藤と一緒に過ごすんですか?」
今更そんなことを言う陸斗に、佑月は怪訝に眉を寄せる。
「そのことなら、ちゃんと説明しただろ?」
「金のためだって?」
「そうだよ、上客だしね。食事だけで大金が──」
「佑月先輩が金のために仕事なんて──」
「はいはいー! 兄貴そこまで! 佑月先輩困らせてどうすんだよ」
声を荒らげた陸斗に、海斗が慌てて止めに入った。
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