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Mission 3
「じゃあ逆に訊きますけど、そんなことを知ってどうするんです?」
「興味だよ」
舐めるように佑月の身体に視線を走らせる男に、悪寒が走る。 それを吹っ切るために佑月は軽く息を吐く。
「興味か。なら、貴方の質問に答える必要はないですね」
「何でだよ」
「だって、興味なら現実を知るよりも、貴方の中で想像した方が楽しいんじゃないですか?」
「ゆ、佑月……やだ……恥ずかしいよ……」
松本は恥ずかしそうに嫌がる素振りをし、佑月の袖を引っ張って首を振っている。
(ヤッタ……上手く話に乗ってくれた)
チラリと佑月が男を一瞥すると、その喉仏が上下に動くのが見えた。
話の内容云々、この男は人が嫌がってるのを見て悦を得るタイプだ。
話を逸らし、かつリアリティーがあるように思わせるには、松本の性格と、男の性格を考えればこの方法が一番効果的なんじゃないかと思い、一か八かで賭けてみたのだ。
「あぁ、ごめんね学くん。だって俺らのこと他人に話すなんて嫌じゃん。まぁ、だからって想像上でも俺らのことを汚されるのはいい気分はしないけどさ」
「そうだよ……想像でも、やだよ……。オレたちの、あんなこと……」
佑月の肩に顔を埋めて、イヤイヤをするように松本は首を振る。 それが男を余計に煽る形となった。
「あんなことって何だよ」
男は興味津々といった風に鼻の穴を広げる。
「そんなの言えるワケないじゃん……。佑月、絶対言わないでね……?」
「うん……。もちろん言わないよ」
本当に泣きそうに顔を歪めての迫真の演技。
思わず佑月も圧倒され唾を飲んだ。 そんな松本を見て悦に入った男。
だが男はともかく、チラリと見えたもの。 それは、松本の口元が少し笑っていたのだ。
それが成功を喜ぶものではなく、あの吾郎という男と同様の悦びの類いのものだと分かるようなもの。
松本のキャラを勝手に大人しい人間だと思っていたが、思わぬ一面を見てしまい、少し動揺している佑月がいた。
人の本質なんて、見た目では分からないことくらい理解はしていたが、実際目の当たりにしてしまうと、やはり驚いてしまう。
真の顔は一体どちらなのか。 とは言っても、どちらでも佑月は依頼された仕事をこなすしかないのだが。
「まぁ……お前らのを想像しても、どうせ陳腐なもんしか浮かばねぇからやめておくわ」
男は諦めた風に言ったが、その目が想像して楽しんでいるのが分かった。
どんな想像をしているのか。
本当は想像されるだけでも勘弁して欲しい。 でも我慢しなくてはならない。我慢を。
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