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Mission 4

「それで……吾郎、オレたちのこと認めてくれるの?」  松本の問いに、男は思案顔で眉を寄せた。  もしこの男が本気で松本のことが好きならば、そう簡単にはいかないかもしれない。  きっと、もっと根掘り葉掘りと佑月らの事を訊いてくるだろう。  何を訊かれても答えられるようにしてるとはいえ、さっきみたいな事はがり訊かれるのは勘弁してほしいところ。 「言ったよね? オレの好きな人を会わせたら別れてくれるって……。もうオレは、佑月のことしか考えられないんだ。お願い……認めて下さい」  男に深く頭を下げる松本に倣って、佑月も男に頭を下げた。 「俺も学くんのことが好きなんです。勝手な事を言ってるのは重々に承知してます。でも、学くんの事は絶対に幸せにします。だからどうか……」  陳腐なセリフな上に、大根役者ばりの演技かもしれないが、佑月も想いを込めて訴えた。  暫く沈黙が落ちる。  恐る恐るといった風に松本と二人顔を上げた。 目が合った男は堪えきれないといった感じに、急に噴き出す。 「アハハハ、お前らよくやるよな」  豪快に笑う男に、一瞬佑月は肝を冷やした。 「周り見てみろよ」  男がサッと店内を見渡すと、周りの女性客らは一斉に気まずそうに目を逸らしていく。  自分たちの演技を見破られたのかと思ったが、そうではないと分かり、佑月は幾分ホッとした。  周りを見ないようにしていても、好奇の目を向けられているのは、もちろん佑月も分かっていた。  普通でもこのようなカフェでは目立つ男三人。 会話の内容が聞こえれば、誰だって気になるだろう。  正直言うと、早くこの空間から逃れたかったが、そうは言っていられない。  引き受けたのは佑月だ。これは仕事なんだと今一度己に言い聞かせて、佑月は男に視線を据えた。 「なるほどな……聞いてた通りに真面目な奴だ。分かったよ。とりあえずお前らのこと認めてやるよ」 「本当?」  パッと顔を輝かせる松本に、男はフッと笑って席を立った。 「あぁ。ま、幸せにな。佑月こいつのこと頼んだぞ」 「……はい」  佑月も席を立って男に軽く頭を下げた。  男が最後に何故か松本を一瞥する。松本の表情は佑月からは見えないが、男は何やら軽く頷くと、颯爽と店から去って行った。  佑月は暫く店の扉を眺める。  妙にあっさりとしているところが腑に落ちない。 「良かった……。これでやっと解放されました。これも成海さんのお陰です」 「……本当に大丈夫なんでしょうか?」 「大丈夫です。成海さんに張り合おうとする人なんていないと思いますし」  そういう問題じゃないと思うのだが。 その思いが顔に出ていたのか、松本は佑月を見てハッとしたように表情を引き締めた。 「確かに少し安易な考えかもしれないですね……。あの、それでしたらこうしませんか?」 「え?」 「1週間様子見という形で、オレとデート……っていうか、会ってもらえますか?」  それが無難かもしれない……色々と。

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