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Trap
◇
「佑月! 見てよ! 可愛くない?」
「う、うん。凄く可愛いね……」
(浮いてる……。 ものすごーく浮いてる)
まるで女の子ようにテンション高く訊ねてくるのは、松本だ。
今日は日曜日でお互いラフな格好で、佑月は松本とデートをしている。どこであの男が見ているか分からないため、お互い敬語は無しにしてる。
その今いる場所が、どうにも落ち着くことが出来ない。
松本に合わさなければならないし、文句はない。だが周りの客はカップルや、女の子ばかり。
男二人、可愛い雑貨屋でアロマキャンドルを見てはしゃいでるなど、さぞかし異様な光景のはず。 現に先ほどから十代の女の子たちに笑われている。
夜は松本に予定があるということで、デートはもっぱら昼間。
男同士の日中デートなど佑月には未知の世界だが、デートと言えば映画とか、食事とか、そういうものを想像してただけに、松本のそれは佑月の想像を遥かに越えてきた。
「そう言えば学くんの歳って聞いてなかったよね」
「フフ、何歳に見える?」
(男同士でもこういう返し、されるものなんだな)
「うーん……二十二、三くらいかな?」
「ふふふ、そんなに若く見えるかな。嬉しい。でも、もう少しいってるよ」
「え、そうなんですか? 年下だって思ってた。じゃあ俺二十五なんだけど、同い年くらいかな」
「さぁ? どうなんでしょう」
松本はクスクスと笑いながら、アロマキャンドルに顔を戻していく。
この話は終了だというサイン。あまり年齢に触れられたくないのかもしれない。
それにしても、松本は本当に綺麗な肌をしている。 生まれ持った肌質なんだろうが〝もう少しいってますよ〟が信じられない。
重くて長い前髪と、眼鏡のせいで顔が隠れてしまうのは残念だ。
「どうかした?」
「え、あ……いや、すみません何でもないです」
慌てて目を逸らす佑月に、松本はクスクスと笑って「そう?」と再びアロマキャンドルに目を向ける。
結局松本は長い時間吟味して、ハート型の赤いアロマキャンドルをいくつか購入し、満足したようで佑月らは店を出た。
「佑月は買わなくてよかったの?」
「あ、うん。見てるだけで楽しかったので」
「そう。あ、電話だ。ごめん会社からみたい」
「いえ、お構い無く」
松本が申し訳なさそうに頭を下げてから、雑踏の中に紛れて行くのを見送って、佑月はとりあえず雑貨屋の前で待つことにした。
腕時計で時間を確認すると十六時前。
この店に一時間近くもいたことに驚く。
大学時代のデートでもこんな事がしょっちゅうあったなと、佑月は懐かしさに笑みがこぼれそうになった。
「よお、佑月」
そんな時、不意に掛かった陽気な声。どこか予感めいたものがあった佑月は、ゆっくりと声の主に顔を向けた。
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