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Trap 3
■
あの日曜日のデートから三日。
とりあえず、もう一週間様子を見て、何もなければ料金を頂く運びとなったが、今のところ何も連絡がなくて佑月はホッとしている。
「佑月ありがとう。助かった」
「いえいえ、いつでも言ってよ? 飛んで来るから」
「フフ、頼もしいわね」
そんな合間にも仕事の依頼はある。
今日の仕事は久しぶりに会う大学時代の友……いや佑月の元恋人だった彼女、水嶋 渚 からの依頼だった。それはブルーレイの接続。
別れて二年は経つが、相変わらず渚は綺麗だった。通っていた都京大学では、ミス都京として四年間女王として君臨もしていた。
その渚とは大学時代の四年間を付き合ってきたが、卒業してからはお互い仕事でなかなか時間が合わず、別れることになった。 会うのはそれ以来なのだ。
「でも、これくらいの接続なら彼氏にしてもらえるだろ?」
「彼氏なんていないわよ」
「嘘だろ?」
驚く佑月に渚はクスクスと笑う。
「何? その嘘って。私だって欲しいんだけど、仕事が忙しいのもあってなかなかね……」
「そっか……。でも渚なら声掛けてくる奴いっぱいいると思うんだけどな」
「まぁね。でも、あまりピンとこなくて。そういう佑月は? 彼女いるんでしょ?」
渚はローテーブルにコーヒーを置きながら、上目遣いに佑月へと訊ねる。渚のこの上目遣いに、男らみんなは見惚れていた。懐かしい思いでその瞳を佑月は見つめ返した。
はっきりとものを言い、さっぱりとしたところが彼女の魅力の内だったが、それが彼女の容姿と相まって反発する者も少なくなかった。
そんな彼女が大学に入って一ヶ月も経たないうちに、いきなり『一目惚れした。付き合って』と、告白してきた時には驚いたものだった。
唐突すぎたが、飾った言葉よりも正直な告白が面白いと思い、付き合ってみようかと当時思ったことを思い出した。
「彼女なら、渚と別れてからいないよ」
「嘘!? 本当に?」
「何だよ、その嘘って」
ここでお互い噴き出すように笑い合う。
「だって、佑月こそ周りの女がほっとくわけないじゃん。大学の時だって、それこそ皆競いあってさ。付き合ってても不安だったんだから」
「不安? 渚が……?」
「そう。あの時は、それを言ったら困らせるとか、煩わしい思いをさせちゃうとか色々思ってたの。だから余裕のあるふりをしていたのよね」
「そうか……ごめん」
「フフ、なんで佑月が謝るのよ。昔のことじゃん」
「そうだけど、その時のことを思うとやっぱりな……」
あの渚が黙っていたなど、今思うと佑月は渚のことをちゃんと見てなかった事が嫌でも分かった。甘えない、ベタベタしないと、さばさばした彼女だったから、当時それが楽だと思っていた。
もちろん渚のことは好きだったが、渚が他の男らにモテていようが、あまり気にしたことがなかった。
人によって様々だろうが、大抵恋をしたら、周りが見えなくなるほど夢中になるというが、佑月は誰かに夢中になったことがない。
そう思うと自分は結構酷い男だなと思う。 須藤のこともあまり言えないかもしれない。
(……いや、でもあそこまで酷くはないはず)
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