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Trap 4
「でも良かった……」
「ん?」
ローテーブルを囲うように腰を下ろした佑月たち。 渚は綺麗にメイクした顔でふわりと笑った。
「何て言うのか、学生の頃の佑月も優しくてかっこ良かったんだけど、私は今の方が断然いい」
「そう……?」
「うん。だってあの頃って、佑月何だか少し冷めたところがあったって言うか……。壁があったのよね。たまに本当に私のこと好きなのかなって思う時もあったぐらいだし」
やはりちゃんと見てくれていた人間は、そういう敏感な部分まで感じ取ってしまう。佑月は内心で反省する。
「でも、今は雰囲気が変わったって言うのかな……」
「雰囲気?」
「そ、雰囲気」
渚が一旦カップに口を付けたのを見て、佑月も温かいコーヒーに口を付けた。
当時から変わらない芳醇な薫りとコクに懐かしくなる。 渚は付き合ってた時からこのコーヒーだ。
「今の佑月はね、分かりやすくなった」
「え……マジ?」
まさかのセリフに佑月は素で驚いた。
「うん」
クスクスと可笑しそうに笑う渚。
それを見て、嫌いで別れたわけではない相手だけに、本当に可愛いと佑月は思った。
「もしかして、好きな人がいるんじゃないの?」
「……うーん、好きな人も今はいない」
「そっか……。じゃあ、好きじゃなくても何となく気になる人とかは?」
「気になる人?」
小さく頷いた渚の目は、興味津々といった感じにキラキラとしている。
正直、気になる人とは別に、嫌な意味で気になる男ならいるが。
「ほら! その顔!」
「へ?」
突然大きな声を出して身を乗り出してきた渚に、佑月は逃げ腰になる。
「さっき話してた時も、そんな悩ましげな表情 してた」
「……悩ましげ?」
どんな表情なのか。だが佑月の悩みの種など須藤しかいないが、 気になる人のニュアンスとはまた違う。
「うん、こういう恋バナしてる時に、佑月が顔に出すなんて珍しいしね。なんか……その相手が羨ましいな」
「えぇ? 羨ましいって、全然そういうのじゃないぞ? 逆に俺はめちゃくちゃ迷惑してるんだよ」
「やっぱり、そういう人がいるのね。だって、今までなら煩わしい相手がいたとしても、顔には全然出さなかったし、考えることすらしなかったじゃん。それがどんな理由であれ、佑月の頭の中に今入り込めてる相手が羨ましいの」
「……」
確かに渚の言う通り、学生時代の佑月は親しい友人以外は結構淡白な付き合いで、嫌な奴がいたとしても、その人間に対して悩むということをしたことがなかった。
それが今ではどういうわけか、佑月はあの男のせいで悩みに悩んでいるというのか。溜め息がもれた。
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