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Trap 5

「それで話が逸れちゃったけど、人間らしいって言ったら大袈裟だけど、佑月が丸くなって良かったって私は思ったの」 「そっか……。自分のことって客観的には見れないしさ。良い方向に変われたのなら、やっぱ嬉しいもんだな」 「フフ。完璧だった王子様の内面が、今になってようやく、その完璧な壁が崩れて見えてきたってとこじゃない?」 「遅くなってすみません……」  冗談混じりにペコリと頭を下げる佑月に、渚は楽しそうに笑った。 「きっと今の仕事の影響もあるんだろうけど、環境の変化って言えばいいのかな、その何らかの刺激が佑月を変えたんだねきっと。それが私じゃなかったのが悔しいけど」 「渚……」  少ししんみりとした空気。その空気を壊すように、佑月のスマホがバイブで着信を知らせてきた。 「ちょっとごめん」 「ううん、気にしないで」  リビングから出てから画面を見て、嫌な予感に直ぐに通話をタップした。 「もしもし松本さん?」 『な、成海さん……助けてください』  小さな声で助けを求める声。  佑月はごくりと唾を飲んだ。受話口にしっかり耳を当て、一言も聞きもらさないように耳に集中する。 「松本さん直ぐに向かいます。今どちらに?」 『帝東ホテルにいます。仕事でホテルにいたんですが、吾郎が話があるって突然部屋に来て入れてしまったんです……。だけど、また無理やり襲おうとしてきて……』  鼻を啜る音。 泣いているのだ。 「……分かりました。でもここからだと三十分は掛かります。ですので危険なら、私を待たず直ぐに警察を呼んでください」 『大丈夫です。今はトイレに駆け込んだので……』  受話口の向こうでは『ここを開けろ』と、吾郎らしき男の声が聞こえてきた。  とりあえず急がなくてはと、松本から部屋の番号を聞いて、佑月は鞄を取りにリビングへと戻った。 「渚、ごめん! ちょっと緊急事態。またゆっくり話そうな」 「え!? 大丈夫?」 「大丈夫大丈夫」  玄関へと走る佑月に渚は慌てて付いてくる。 「気をつけてね! また電話するから!」 「おぅ、ありがと! 本当ごめん」  心配そうに眉を寄せる渚に手を振って、マンションを後にした。  大通りまでダッシュで走る。  こんなに真剣に走ったのなんて、高校の時の体育祭以来だった。 「はぁはぁ……」  心臓が悲鳴をあげそうに、激しくその存在を主張してくる。これは筋肉痛になるのも決定だ。大通りまで出て、タクシーを探すが、直ぐに捕まるというドラマばりの幸運。 ドアが開くなり、佑月はなだれ込むように乗り込んだ。 「はぁはぁ……すみません……帝東ホテル……まで……急いでください」 「帝東までね……て、お客さん大丈夫ですか?」 「あ、はい……すみません大丈夫……です」  情けない。 たった数百メートル走ってこの有り様とは。 座席のシートに背中を預けて、スマホを上着から取り出した時、運転手と目が合った。

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