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Trap 8
「あれ? あまり驚かないんですね」
「驚いてますよ。でも、これで納得しました」
「納得?」
小首を傾げる松本に佑月は頷く。
「ええ……ずっとあった違和感の正体が分かったので」
ギリギリと締め付けられる手首が痛い。佑月はチラリと吾郎を見る。イライラしてるのか、眉間に深いシワを寄せている。
もう少し時間を稼げればと思っていたが、突然吾郎は佑月のネクタイに手をかけ外しにかかってきた。
「ちょっ……何するんだよ!」
驚く佑月を余所に、吾郎は素早く佑月の両手を後ろに束ねると、ネクタイで縛り上げる。
「おい、やめろ! 外せ! いっ……!」
足をバタつかせると、吾郎は無情にも佑月の太股の上に跨がって座り、動きを封じてきた。
(おい……そこは……痛い)
「それで? その違和感って何?」
佑月の状態を見ても、松本は愉しそうな笑みを崩さない。普通ならこんなことをされて、答える義務など自分にはない。 ないが、佑月は敢えて答えてやった。
「……最初の違和感は松本さんの名を呼ぶこの男のぎこちなさ。さっきもそうだけど、付き合ってたはずなのに、妙に慣れてない感じだったし、おかしいと思ってました」
声は聞こえないが、吾郎が笑ってるのが太股に振動として伝わる。
「後は松本さん……貴方の隠された顔」
「隠された顔?」
松本からではなく、吾郎からの問いだったが、佑月は吾郎には答えず、松本の表情を探った。だが松本はニッコリと微笑みを向けてくるだけだ。
まるでカメレオンのような男だ。佑月の推測に過ぎないが、今この場にいるこの顔もきっと偽の顔なのかもしれない。名前もおそらく偽名だろう。
あの時の……吾郎に紹介した時に見せたあの松本の顔が甦る。あれが真の顔なのか、悦に入った自分を隠せずにこっそりと笑みを浮かべる口元。それを見て、ショックを受けたと同時に浮かんだ違和感。別れたいと苦悩していた人物が、見せる顔ではなかったからだ。
それに、この吾郎という男。
普通別れ話となる場なら、恋敵である者には少しは険のある目を向けるものなのに、この男の目は佑月に対しての興味ばかり浮かんでいた。そしてあのデートにも毎回姿を見せていた。隠れるわけでもなく、見つかっても構わないといった行動。
〝尾行はしてない〟
〝ストーカーなどされていない〟
双方否定していたが、あれも大きな違和感の一つだった。
それでも佑月がこの件にこだわった理由は〝松本〟を信じたかったのもあるし、何か目的があるのなら、その真意が知りたかったからだ。
まんまと罠にかかってしまったが……。
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