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Trap 9

「フフ。そんな細かいことに気付くなんて、さすがと言うべきなのかな? こうでもしなきゃ、いきなり近づいては警戒されるでしょ? 美味しそうな獲物にはしっかりと下準備が必要だからね」  あの愉快そうな笑みをたたえる反面、松本の目には鋭い光が宿っていた。  だが、一番の疑問点があった。  なぜ自分なのか。二人とも面識などない。 「……俺、あんた達と会ったことあるか?」  足が痺れて感覚がなくなりかけている。絞り出す佑月の声に少し震えが混じる。 「いいえ。でも成海さん、貴方は有名ですからね……ふふふ」 「有名……?」 「そ、有名。その美貌もあるけど、それだけじゃなくて、色々とね……」 「色々って──っ!」  問おうとした佑月の口は、吾郎の手によって塞がれてしまう。 「んんー……」  顔が振れないほどに押さえつけられて、呼吸を奪われる。 「そろそろいいか? 我慢出来ねぇんだけど」 「そうだね。ごめん、いいよ。オレも見学をして楽しませてもらうよ」 「あぁ」  ニヤリと笑う男の顔を佑月は涙目で睨む。もっと話して、時間をかせぎたかったのにと。 「ん……っ!」  その時、佑月の頭は一瞬真っ白となる。  ここに来ることを事務所に連絡していない。今頃気付くなど、あれほどこの依頼中は連絡を怠らなかったものを。  陸斗らにこの話を持ち掛けた時、帰る時や何かあった時は、必ず連絡するからと約束をして、やっと承諾を得たものだったのだ。  今日は渚の依頼で出掛けてることしか伝えていないため、少々遅くなっても、きっと彼らは昔懐かしの元カノにあって、話に花が咲いたとしか思わないだろう。  最悪だ。いくら慌てていたからといって、こんな初歩的なミス。誰も助けには来ない。  どうすべきかと佑月は思考を巡らせるが、絶望的な結末しか浮かばなかった。 「さてと、じっくりと味わうとしますか」  吾郎は自身のベルトを引き抜くと、それを佑月の足首にきつく巻きつけてきた。 「やめろ……俺はその()がない! そんな俺をヤっても楽しくないだろ!」 「心配しなくても、お前にその気があろうと、なかろうとどうでもいい。お前みたいな綺麗な人間を好きに出来るってだけで最高なんだよ」  そう言って佑月に跨がったままの男は、股間を擦り付けてきた。 「やめ……ろ! 気持ち悪い」  何度経験しても慣れることはないおぞましさ。硬くなったモノを嫌がる佑月に更に押しつけてくる。人が嫌がることに快感を覚える質ゆえに。  結局この二人の目的は、佑月をレイプすることだった。特に佑月の上に跨がってるこの男の目的はそうだろう。  だがと佑月が松本に目を遣ると、相変わらずニコニコと愉快そうな顔でこちらを眺めている。  松本の真の目的が分からない。何か他に意図がありそうだが。  そんな松本に裏切られたことよりも、やはり自分の愚かさの方がショックは大きかった。  きっと須藤が知ったら笑うに違いない。 『警告してやったのに』と……。

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