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Trap 10
佑月は抵抗することをやめ、身体から力を抜いた。もちろん諦めたわけではない。誰がこんな男を悦ばせてやるかという思いでだ。
「あれ、どうした? 抵抗しないのか?」
「……」
「ふぅん。いつまで持つか見ものだな」
何か余計なスイッチでも入ってしまったのか、吾郎はそう言うや否や、佑月のスーツの上着のボタンを乱暴に引きちぎる。
弾け飛ぶボタン。ピシピシと何かにボタンが当たる音。渚に会うからと、少し張り切って着た高めのスーツだったのに、と嘆く間もなく。
「んぁ……!?」
不意討ちにワイシャツの上から胸の突起を爪で引っ掻かれ、驚きで佑月の声がもれてしまった。
「いい声出すじゃねぇか」
何を勘違いしてるのか、吾郎はハァハァと荒い息遣いで、執拗に佑月の胸を弄る。
そこは男にとって飾り程度でしかないもの。
だが過去に佑月を襲ってきた男らも、執拗なほどにソコに執着をしていた。男がそんなところを弄られて、気持ちいいわけがないのにだ。気持ち悪くて悪寒が走るだけ。でも、やめろと言いたいのをグッとこらえ、佑月は唇をきつく噛み締めた。
「なぁ、気持ちいいんだろ? 我慢すんなよ」
佑月の耳元でそう囁いたのち、吾郎は耳たぶをベロリと舐めては噛みつく。
「く……」
叫びたいのに叫べない。悔しさと気持ち悪さとで、佑月は爆発しそうな感情を抑えるのでいっぱいいっぱいだ。
そんな佑月に面白くなさそうに眉を寄せた吾郎は、片手で佑月の顎を掴み、顔を正面に向けさせた。乱暴な手つきのせいで首に痛みが走る。
「いっ……!」
痛みを訴える間もなく、吾郎の顔が近づいてきたため、咄嗟に佑月は歯を食い縛った。こんな男にキスされるなど冗談ではなかった。
だが、強引に擦り付けるように唇を押しつけてくる男。それだけでも十分過ぎるほどに気持ち悪い。
「ん……んん……」
息が出来ない上に、痛みが襲う。
「おら、口開けろよ。歯食い縛るな」
頬に食い込ませている指に力を加えられ、痛みでつい開けてしまいそうになる。
しかし頑 なに口を開けない佑月に、吾郎は苛立たしげに舌打ちをした。
「吾郎」
「……何だよ」
今まで静観していた松本が、こちらに近づいてくる気配。
吾郎の手が緩んだ隙に佑月は松本へと顔を向ける。その手に何か小瓶のようなものと、小さな物があるのが見えた。
(なんだ……あれ)
「これを使えばいいよ。嫌でも求めてくるから」
「いいのか? これってなかなか手に入らねぇ代物だろ」
手渡された物を見て、吾郎は狂喜したようにそれを光に翳して見ていた。
香水かと一瞬思った佑月だったが、直ぐにそれは違うと警鐘が鳴り出す。あれはきっと、考えたくない物だ。
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