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Serenity 2
「ちょ……やめてください」
須藤の手を掴んでやめさせようとすると、須藤はもう一度佑月の頭をぐしゃりと撫でてからその手を引いた。
「どうした、やけに素直だな。でもまぁ、本音を言うと、お前のあんな顔や声を聞いて、我慢しなきゃならないのは……なかなかの試練だったがな」
「って、どこ触ってるんですか!」
「今更だろ。減るもんじゃあるまいし」
「変な屁理屈言わないで下さい! 子供ですか」
パジャマの上から、佑月のモノをガッシリ掴む須藤の手を、おもいっきりつねった。だが須藤の痛そうな素振りも見せない涼しい顔に、佑月は脱力してしまう。
「そうだ今何時ですか? こんな所でのんびりしてる場合じゃない」
佑月は慌てて辺りを見渡す。
そして洒落たインテリアと化してるベッドサイドの時計を発見した。
「え、十一時!?」
もう深夜の二十三時という時間に佑月は唖然とする。何時間意識なかったんだと。しかも陸斗らに何の連絡もしていない。相当心配しているに違いなかった。
「須藤さん、俺のスマホと荷物はどこに?」
「お前の荷物ならそこだ」
顎で指し示された場所を見ると、これまた高級感漂う革張りのソファに鞄が置かれていた。あの高級ソファと並んだ自分の鞄が可哀想に見えてくる。
「ありがとうございます」
鞄を取りに行こうとベッドを降りようとした時、「待て」と須藤に腕を掴まれる。
「なんですか? 離して下さい。陸斗らに連絡しなきゃ」
「その必要はない。あいつらには既に連絡は済ませてある。大人しく寝てろ」
須藤に両肩を押されて、呆気なくベッドに沈む。力で勝てないのは分かっているが、どうしても抵抗しようともがいてしまう。
「離して下さいって。俺から直接話したいんだよ」
そう訴えると、数秒ほど佑月を見つめた須藤は、軽く溜め息を吐く。
「言うことを聞かないな、お前は……」
須藤はしぶしぶと解放した。
こんな大事なことで、須藤の言うことなんて聞いていられるかと、佑月は直ぐにベッドから這い出た。そして降りた瞬間。
「うわっ!?」
視界が突然に急降下。
「え……?」
どうやら見事に膝からカクンと落ちたようだ。膝が笑って立てない。もしかしてと須藤を見ると、須藤は澄ました顔で煙草を吸っている。
「やっぱり、何かした──」
「自分の体力の無さを棚に上げるな。だから大人しく寝てろと言っただろうが」
「……」
須藤は呆れたように佑月を一瞥してから、ナイトテーブルにあった灰皿で煙草を消している。
悔しいが何も言い返せない。力が入らないとは感じていたが、まさか立てないほどだとは佑月も思いもしなかった。
普段使わない体力を使ったからと言って、ここまで軟弱野郎だったとは。
「はぁ……」
溜め息をついて項垂れる佑月の視界に黒い影。顔を上げた瞬間、ふわりと身体が浮いた。
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