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Serenity 3
「うわっ!」
軽々と佑月を横抱きにして、ベッドへと戻す須藤。これはかなり恥ずかしい。この歳で、しかも男がいわゆるお姫様抱っこされるとは、どんな絵面だ。
「何を赤くなってる」
「べ、別に……」
ニヤニヤしながら、いちいち突っ込むこの男は本当にいい性格をしている。
「ほら」
一人ぶつぶつと言う佑月の目の前に、須藤が鞄を差し出してきた。
「あ……ありがとうございます」
からかって楽しんでいると分かっているのに、いちいち反応して。こういう優しさと言うのか、それにもなんだか調子が狂った。
佑月は溜め息をこぼしつつ、鞄を開けてスマホを取り出した。
「ちょっと失礼します……」
「あぁ」
断りを入れてから、スマホの画面を起動させるが、陸斗からの着歴が大変ことになっていた。依頼から帰ってこない上に、佑月からの連絡もないのでは当然とも言えるが。
『佑月先輩!』
掛けてワンコールで出た陸斗。その後ろで海斗も佑月の名を呼んでいる。
「陸斗……二人とも心配掛けてごめんな」
『何があったんですか!? 須藤は何も言わないし。てか、今何処にいるんですか?』
「あ……えーと……」
佑月は言葉に詰まる。何処にいるかまでは考えてなかったからだ。須藤の家にいるというのも言いにくい。だからといってアパートにいると嘘をついて、家に来られでもしたら大変だ。
「貸せ」
「あっ! ちょ」
須藤にスマホを奪われて、取り返そうにも俊敏に動けない今の佑月には無理だった。
「成海なら俺の部屋にいるから心配するな」
「ちょっと勝手に出るな! って、何切ってるんだよ!」
勝手に通話を切った須藤は、佑月の手の届かないソファへとスマホを置く。
頭が真っ白になって呆然とする。絶対に陸斗は変に思っているはず。しかも〝俺の部屋〟とか、誤解したら厄介だ。
「なんだ、その顔は。何て答えようか迷ったところで、すぐにバレる。あいつらに嘘をつくのか?」
この男はいちいち的確に突いてくる。
「そうだけど……もっと他に言い方が……」
「ほう、例えば?」
「た、例えば? それは……って言うか、今から帰ればいい話ですし」
「そうか。なら帰ればいい」
「え?」
あっさりと返され、逆に佑月は拍子抜けた。いや、別にその方がいいのだが。
「じゃ、じゃあ帰ります」
「送って行かないからな」
須藤は言葉の通り、動くつもりはないと示すように煙草を咥える。
「わ、分かってますよ。一人で帰れますから」
タクシーを拾えばいいと思ったが、金がないことに気付いた。
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