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  「雪梅、そういうことらしいからもう諦めたら」 執事長にダメだといわれたら、僕はどうすることもできない。僕は執事長の主じゃないから執事長のいうことはきかないといけないから。 「れいはソレでイイのかい?私と八ヶ月以上もセックスができなくっても」 「え?僕?僕はべつに構わないよ?」 ソレにいま、雪梅としたら折角止まった鼻血がまた噴きだしそうだしといえば、父様が首を傾げる。 「また逆上せるのかい?」 「逆上せるというか、興奮して噴きだすって感じかな?」 僕が首を傾げて応えると、父様がソレは大変だと身体が万全になるまでは絶対に禁止だといいだす。雪梅はソレを聞いて、もうコレ以上眉根が深まらないというくらい深くさせるから、僕は大きな溜め息を漏らした。 「雪梅、僕の妊娠やその赤ちゃんのことは認めなくってもイイけど、せめて、僕が鼻血を噴きだすことくらいは心配してよ」 流血で死にたくないなと本音を漏らせば、近くにいた執事長までが大きな溜め息をついてこういう。 「解りました。キスなら許します。ソレなら、黎様の身体に負担は少ないでしょう」 と。しかしながら、その提案に僕の方がたじろってしまった。 「え………、キ……ス……」 執事長がなにか問題でもと僕をみるが、「ソレはよい考えです」と父様が頷くから僕の動揺はなかったモノとされて消えてしまう。雪梅までもが渋々執事長の提案を呑み込むモノだから、なおさらなかったことになってしまった。だから、僕はひとりで苦笑いをする。 「ん〰、僕、耐えられるかな………」 心配だなと俯けば、雪梅が僕に近づいてきて、僕の顔を下から覗き込んできた。 「耐えられる?堪えられるではなく?」 屈んだ雪梅が不思議そうな顔をするのは、僕が快楽に流され易い体質だと知っているからだろう。だから、雪梅は僕が雪梅の身体が目当てだと思われているようなのだ。 「うんとね、雪梅からされるキスって物凄く気持ちイイから、僕、鼻血を噴きださないかなって…」 「黎、ソレって、キスでも興奮するってことなのかい?」 父様が僕の肩を掴んでくるから、僕は驚いて雪梅の後ろに隠れた。 「そ、……だけど。…まさか、キスまでダメっていわないよね?」 雲行きが怪しくなって僕が訊くと、父様はチラリと執事長の顔をみる。監視をしろというアレなのだろう。執事長は畏まりましたと頷いた。 コレで少しは雪梅の機嫌も治るだろうと雪梅の眉根をみるが、僕の位置からは雪梅の眉根どころか顔までみえない。いい返さなかったことから雪梅も良しとしたんだろうとひとり合点をして、僕はベッドに横になった。 今日いちにちでいろんなことがあり過ぎて、頭も身体も本当はついてこれていない。心なんか物凄く動揺しているようで、早鐘のようにガンガンと打ち鳴らしていた。 少し目蓋を綴じて、雪梅の腕を掴む。雪梅は顧みてから、屈んだ姿勢からもう少しだけ低くさせた。 「ん?れい?」 「雪梅、僕もう疲れた……。…休みたい………」 「そうなら………」 父様と執事長は部屋をでていった。本当にこういう気遣いはだけは当たり前のようにできるんだと、僕は不思議がりながら目蓋を綴じた。 ああそういえば、夕食もまだだった。家のこともなにもしてないやと思ったが、いまは疲れすぎてどうでもよくっていた。うつらうつらする意識の中で今日のことが他人ごとのように流れ込んでくる。心は休みたがっているのに、頭は整理をしようと奮闘しているようで、僕の身体はその間をとって傍観者に仕立てあげているようだった。 雪梅はベッドに入って僕の隣に横たわると、僕の身体を引き寄せて抱きしめてくれた。雪梅のこういうところは好き。だから。 「…せっか、ぼくね…、…せっかのこと……、…すき…だよ………」 僕はそう言葉にした。多分、こんくらいの我が儘をいっても、大丈夫だろうと思って。 だって、僕は雪梅と番になったし、雪梅と結婚もした。ソレに、雪梅は僕のことが好きで愛しているらしいのだから、コレくらいいってもバチはあたらないと思ったのだ。いや、そうでありたい。 そう思うと、深く堕ちていく闇は冷たくも寒くもなかった。こうやって雪梅に抱きしめられると凍りそうだった心もいまはなかったから、もっと雪梅といっ緒にいたいって我が儘もいっても大丈夫だよねと思えてきてしまう。こんな気持ちははじめてで、ほわほわした気持ちの中からどんどんと望んではいけない欲が溢れてきていた。 もう捨てられたりしないよね。僕のこともう要らないって思わないよね、と。 「…だから、…ぼくを…すてないで…。…ずっと、…いっしょに…いて…。…ぼくを……はなさないで……」 お願いと僕は雪梅の首を腕を廻して必死にしがみついた。このまま眠って朝起きたら夢だってこともあるだろう。だけど、いまココにある温もりは偽りではないから、「雪梅、すき、大すき」と僕はゆっくりと雪梅の唇にキスを落とした。  

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