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チリチリチリと目覚ましがなって、僕は飛び起きるようにベッドから起きあがると、僕の横には雪梅がいた。コレは夢ではないよねと雪梅の頬を人差し指で突っついて、僕は感触を確かめる。
「………っん?………なに?」
僕の指で起こされたのか雪梅がゆっくりと目蓋を開けた。眠そうなとろんとした目でないから、僕は首を傾げる。
「起きてたの?」
雪梅は薄く笑って、僕の人差し指を掴むとゆっくりと口に含んだ。
「雪梅……?」
止めてという声がでるかでないかで僕の唇が雪梅の唇に塞がれる。舌が割りはいってきて、僕は慌てて雪梅の舌を受け入れた。
「………っんん、……せっ、か………」
夢じゃないよね?と僕は必死で雪梅にしがみついて声が聞きたいとせっつくと、雪梅は漸く僕から離れておはよう、れいという。
「………お、はよう……、雪梅……」
「ん?顔が紅いけど、どうしたのかい?」
雪梅は穏やかにそういうが、その顔は物凄くニヤけていた。
「ワ、ワザとでしょう!」
そう怒るが、僕の顔も雪梅同様ニヤけていた。昨日のアレは夢じゃないと思うと、なんだか心が温かくなってほんわかした気分になったから。
「そうだよ。れい、物凄くして欲しそうな顔をしてたから」
雪梅はそういうともういち度僕にキスをした。押し倒されるような体勢で僕がもがいていると、いきなり扉が開かれて執事長が入ってきた。
確か、昨日父様に託されていたなと遠い目で眺めていたら、執事長としては絶対にありえない行動をとる。雪梅の身体をがっしと掴むとソレはもう軽々と雪梅の身体を僕から引き剥がすのだ。
「黎様、大丈夫でしょうか?」
多分、執事長が僕にそういうのは僕のお腹にいる子に対してのことで、僕自身の心配はまったくしてはいないだろう。現に僕はいままで、いち度も執事長にこういう扱いをされたことがないのだ。
「えっと、…………ありがとう…………?」
執事長をどう呼んでイイのか解らず、首を大きく傾げると、「セバス」で宜しいですと答えるのだ。いや、執事長、貴方の名前は清容水(しん ようすい)でしょうと突っ込みたかったが、執事長が僕にそう提案してきたってことはそう呼んで欲しいということだと、僕はおそるおそる執事長をセバスと呼ぶ。
「セバス、雪梅を下ろして。タダ、雪梅とチューしてただけだから」
僕が赤面すると雪梅が眉根を潜める。どこにヘソを曲げる要素があったんだと慌てる僕に、雪梅は「私のことは、コレからメリオと呼びなさい」とやや命令口調でそういい退け、なぜかニックネームをつけたがる。
「………え?雪梅は雪梅だよ。メリオって、なに?物凄くダサい……」
僕がそう渋ると、急に執事長が勝ち誇った顔をして雪梅をみる。そして、我が家のゆいいつの移動手段である車の鍵を差しだした。
「雪梅様、今日は先約がありますので、申し訳ございませんが出社の運転はご自身でお願いします」
執事長の申しでに雪梅ではなく、僕が慌てる。いち度雪梅の運転で車に乗ったことがあるが、ソレはもう地獄だった。生きた心地がまったくしなくって、もう二度と乗りたくないと誓うほどだった。
「ちょ、ダメだよ。雪梅にもしものことがあったらどうすんの!」
運転が下手だといえば雪梅がヘソを曲げると思ってそういうと、執事長は穏やかに応じるのだ。
「大丈夫です。安全装置がついてます。ソレに、自動運転も搭載なのでなんの心配もありません」
いやいや、雪梅は貴方の主でしょうと僕は「ひとりで病院にいけるから、雪梅を送ってあげて」というと、執事長が眉根を潜めた。おいおい、なんで執事長がヘソを曲げるんだと僕は助けを求めるために雪梅をみれば、雪梅はまだヘソを曲げていた。コレは大変だと僕はおねだりポーズをとる。
「雪梅、ダサいっていって、ゴメン。だけど、僕は雪梅って呼びたい。ダ~メ?」
こういうくねくねと身体をくねらす動きはそう得意じゃないから、あまりやりたくない。やりたくないけど、コレがいち番手っ取り早い方法なのだ。ソレなのに。
「やだ」
即答で拒否られて、ああもうと執事長をみても執事長もヘソを曲げているから、どうすることもできない。こうなったらどちらかを切るしかないが、僕は執事長の機嫌を治す要素と方法がまったく解らないから、おのずと雪梅に尽力を尽くすことになる。だが、僕はふと思った。コレは通常運転だ、と。
僕は溜め息をひとつ漏らして、毎朝、雪梅のご機嫌をとっていることがもう僕の日課になっていることに落胆する。そして、重たい口を開いた。
「そう解った。メリオ、コレから僕も"れい"じゃなく"よしのり"って呼んで」
僕だって、いち度くらいは雪梅に艷黎と呼んで貰いたい。黎って改名したけど、やっぱり艷黎にもおもいでがあるから。なのに。
「「ソレは、ダメ!」です!!」
なぜかふたりが同時に叫んで即行で却下される。どんだけ黎という名に愛着や思念があるんだと僕は呆れるのだが、ふたりともヘソを曲げるのを止めたらしく、僕の機嫌をとりだすのだ。
「黎様、黎様は黎様です」
「そうだよ。れい、私のことも雪梅でイイよ。メリオなんて、そんなダサいネーミングはよしてくれるかい」
いやいや、雪梅がメリオって呼んでといったのもそのダサいネーミングを考えたのも雪梅だから。そう思うが、僕はグッと堪えて。
「解った、雪梅が雪梅でイイっていうなら僕はどっちでも構わないよ。でも、セバスはセバスのままでイイでしょう?」
番犬の名前みたいでカッコイイといえば、執事長が固まってしまった。
「ば、番犬……。つまり、犬みたいな名前ってことかい?」
雪梅はソレはもうにこやかにそういうが、いった自分の言葉にツボったようで腹を抱えて笑いだしていた。そして、「清、今日から私もセバスと呼ぼう」と意地悪そうにいうのだ。
執事長は慌ててセバスはもう結構ですと訂正するのだが、雪梅は主命令だと執事長はセバスとみんなから呼ばれることになった。
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