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  ソレから、いち時間もしない内に僕は病院へいく準備をしてから、執事長の運転で車に乗り込む。雪梅の出社をタクシーでするとなったら、ソレからはもう早かった。家の中のことはほとんど執事長がやっていてくれていたようで、僕がすることは身支度だけだったから。 本来ならぜんぶ僕がしないといけないことだったから、僕は執事長にゴメンなさいと謝ったら執事長は謝ることではありませんと、なぜか、雪梅と同じ待遇で接してくれる。コレもまた僕のお腹の中にいる子に対しての処置なんだと思うと、少しだけ悲しくなった。 そんな僕のあとを追って、雪梅も車に乗り込んでくるから僕は首を傾げた。 「アレ?雪梅はタクシーでじゃないの?」 てっきりタクシーで会社にいくんだと思っていた僕は瞬きをした。どう考えてもつき添いでついてくるハズがないと執事長も思っていたから。 「そうですよ、雪梅様。私が送るとなれば、会議に間に合わなくなりますよ?」 「ん?ああ、今日は会議ないんだって。ソレに、休みだっていわれた」 会社に遅れるって電話を入れたら、この前休日出勤したでしょうと部下にいわれたらしい。毎回、ギリギリか遅刻でそんなに仕事をしていないような気がする僕は、雪梅の会社ってそんなに忙しくないのかな?と首を傾げる。 「雪梅って、仕事ないの?」 会社で雪梅がどんな仕事をしているか知らないから僕はそう訊く。 「ん〰、基本、印綬押しだからね………」 「………???………印綬押し………?」 「そう、毎日、印綬を書類に押してOKだすだけだからね」 雪梅は金庫にある印綬のことをいう。いっ回だけ印綬を持っていくのを忘れて、執事長に取りにいって貰ったことがあるともいうのだ。もしかしたら、あのときのことかな?と僕がそう訊くと、そうだよとあっさりと返された。執事長は僕がお金をとって逃げだそうとしていたと雪梅に報告したらしく、ソレで僕と雪梅の話が喰い違ったようで、雪梅は僕が逃げださないように執事長に監視させて、僕とのセックスの仕方を変えたようなのだ。僕は僕で、雪梅に捨てられないか心配で、必死で雪梅に応えようと頑張ったが、雷梅が好きな僕の心がついていけず心が病んでしまっていた。 「ゴメン、雪梅、印綬を盗もうとして……」 僕はそう謝ると雪梅は「怒ってないよ。れいは私とずっといたかったからそうしたんでしょう」と僕の頭を撫でる。もし、僕が雪梅から逃げだそうとしたら、雪梅はそんな僕を捕まえて監禁して拘束するつもりだったというのだ。 だから、僕はソレほど雪梅が僕のことを愛してくれているんだと知って、益々恐縮してしまう。 「だけど、僕は……」 泥棒だというと、雪梅は「ソレじゃ、私も泥棒になろう」と僕の唇にキスを落とした。目蓋を大きく開いて僕が雪梅の顔をみれば、雪梅は口を薄く開けて笑った。 「コレで、れいの心は私が盗んだよ」 上手く盗めてよかったとまた僕の唇にキスを落として、僕の意識を雪梅に向けさす。僕がみいるように雪梅のことをみつめればみつめるほど、雪梅は嬉しそうにこういう。 「ほら、コレでおあいこ。私もれいも泥棒だ」 僕の所有物がないことをみ越してそういってくれたんだと思うけど、僕の心はまだココにある。心臓が感情を持っているとは到底思えないが、僕は雪梅にキスを返しながらこういった。 「あのね、雪梅。もしも、雪梅になにかあったら僕のこの心臓を雪梅にあげるから。そうしたら、僕はずっと雪梅といっ緒にいられるでしょう」 だが、雪梅の顔色が変わった。そんなことできないという雪梅の顔は、僕の心を闇色にかえた。 「雪梅、僕の心が要らないの?」 僕の声とは思えない低くって冷たい言葉に雪梅が生唾を呑み込む。恐怖というか、もうコレは強迫観念であって、押しつけるようなモノだった。 「僕は雪梅がいないと生きていけないから、ちゃんと僕の心臓を受け取ってよね」 そうしないと僕はいま直ぐにでも雪梅を殺して、僕の心臓を植えつけるから。 雪梅の心臓を鷲掴みにするように雪梅の胸筋を掴んだら、雪梅は困ったなと苦笑いをした。だが、僕が爪を立てて雪梅を傷つけると、雪梅はぎゅっと僕の身体を抱き寄せると深いキスをして、仕方がないなと僕の舌を絡ませながら頷いた。自分になにも起きなければ、ソレで済むと思ったのだろう。 「雪梅様、黎様、病院につきましたよ。私は受つけをしてきますから待ち合い室の奥にある部屋でお待ちしていてください」 いつの間にか病院の駐車場についていたようで、執事長は僕と雪梅にそういって車からおりた。雪梅の熱い舌をもっと堪能したい僕は、執事長の言葉なんか耳に入っていなかった。 「せっか、………もっと………」 雪梅の首に腕を廻して、雪梅の顔を引き寄せる。こんなにも淫乱でイイのだろうか?と思っても、もう止める術はない。鍵はオートだからドアを閉めれば勝手に施錠してくれる。執事長の手を煩わすこともないから、なおさら僕は雪梅に没頭した。 「ふふっ、れいは本当にいやらしいね♪」 キスの合間に交わされる言葉が物凄く僕の心を熱くさせて、身体をヒートさせる。雪梅としたいと腰を太股に擦りつけるが、雪梅は青姦は私の趣向ではないよとキスだけしかしてくれなかった。が、僕が満足するまでキスはしてくれたから、不満はそうなかった。 ようやく気がすんだ僕は僕以上に満足そうな雪梅といっ緒に車をおりて、執事長がいっていた待ち合い室の奥にある部屋に向かった。流石、大企業の妻がいち押しするだけあって、建物は綺麗で設備も整っているようだ。 多分、ココが産婦人科だと知らなければ、タダのマンションである。出産するだけにこんな豪華な個室が用意されていたら、マタニティブルーというモノにはならないだろうと、僕はでっかい建物をみあげながらそう思った。 「凄いね、雪梅のお屋敷よりかはこじんまりとしているけどさ」 掃除が大変そうだと物凄く庶民的意見を述べて、僕は雪梅の腕に腕を廻した。腕を組むのは、雪梅に見惚れている貴婦人を牽制するためだ。旦那がいるのに卑しいヤツらめと牙を剥けば、雪梅は物凄く嬉しそうだった。 とはいえ、コレだけの貴婦人がいるのに僕と同じ患者が誰もいないということは、ソレだけ男のオメガというモノは希少なのかもしれないと思った。番になって結婚までできる男のオメガは少ないと父様もいっていたから、僕はモルモットにされないか心配だった。 僕の気苦労もなんのそのとだらしない顔で、僕の隣にいる雪梅が目につく。 「雪梅、鼻の下伸ばさないで。僕に伸ばしてるって解るけど、僕以外の人にはそうみえないから」 貴婦人の熱い視線に僕は雪梅の腕をさらに強く引っ張って、雪梅の顔を僕に向けさせる。ヤキモチの向ける先が雪梅にではないと解っていても、やっぱり腹が立つのは変わらない。 「もう!なんで、雪梅ついてきちゃったの!」 僕の苛々が、いっときのピークを迎えようとしたときだった。雪梅が僕の腰に腕を廻して僕の身体を引き寄せると、チュッと大きなリップ音を立てて貴婦人らがみている前でキスをするのだ。 「…せ、っか………!……んっ、…ダ、メ……」 だが、深まるキスに僕は抵抗ができず、だれかにみているという状況にも興奮する。だから、次第に雪梅の首に腕を廻して、気づけば僕の方が雪梅の唇を貪っていた。  

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