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  ベッドの上で大人しくしていたら、雪梅がクルリと顧みて僕をみた。 「れい、明日、赤ちゃんをみにいくかい?」 今日は安静にしていた方がイイようなことを雪梅はいって、僕の頭を撫でる。なんでこうくるくる掌を返すような性格なのか、僕には解らない。雪梅に酷いことをされてはいないけど、心臓が休まる日がないから息苦しいときがある。ソレに、入院に必要なモノを取りに家に帰った執事長がどんなことを雪梅に耳打ちしたのかも気になるところだ。 「れい?聞いてる?」 ぼんやりと考えていた僕にそう聞いて返事を促す雪梅は、さっきの雪梅と別人のようだ。雷梅と入れ替わったんじゃないかと思うくらい、人が変わる雪梅に僕は溜め息をついて、応じる。 「あ、うん………、ねぇ、雪梅、赤ちゃん嫌いなんでしょう?無理しなくってイイよ」 僕に気を使ってくれているんだと思って僕は雪梅にそういったのに、雪梅は悲しいそうな顔をした。どうして、そんな顔をするんだと思ったら、雪梅が誤解だよといいだす。 「私は子供は好きな方だよ。タダいまはれいを私のモノだけにしたかっただけなんだよ」 雪梅はそういうけど、僕は雪梅のいっている意味が解らないから、首を傾げる。 「どうして?」 「子供ができたら、れいはその子ばかりをみるじゃない?私は寂しくって、その子に嫉妬しちゃいそうなんだよ」 「………?」 嫉妬?ソレはしてはいけないことなのだろうか?僕にはよく解らないから、さらに首を傾げた。僕だって、雪梅に色目を使う貴婦人に嫉妬をした。ソレなのに、雪梅はしてはダメというのは物凄く変だと思ったからだ。 「赤ちゃんはね、そういうことに敏感なんだ。親の顔色ばかり窺うのって可哀想でしょう?」 窺うって、雪梅はなにをいっているんだろう。年下が目上に気を遣うのは当たり前なのに、可哀想というのはおかしいよと顔をあげたら、雪梅は困った顔をした。どうして、そんな顔をするの?と思ったのと同時に、ある疑問にぶつかる。赤ちゃんと同じ年下の僕にはそういう感情はないの?と。 雪梅の家にきてからずっと僕は、雪梅の顔色ばかり窺ってきた。赤ちゃんと同じなのに、どうして、僕は雪梅に気を遣わないといけないの?意味が解らない。そう思うと心の底から腹が立ってきて、僕はどうなの?僕は可哀想じゃないの?と僕は雪梅のように眉根を潜めた。 「ほら、れいだって不機嫌な顔になった。私が子供のことばかり優先すると嫌な気持ちになったでしょう?れいはまだ子供で、そうやって私にいっぱい甘えて欲しいんだ」 雪梅はそういうけど、雪梅はいち度も僕を甘えさせてくれなかった。執事長と上手くやっていけてなかったときも放置だったし、なにより、雪梅ばかりが僕に甘えてきていた。だから。 「甘えてって、そんなのズルいよ!」 僕は怒りの儘思うが儘雪梅に感情をぶつけた。急に怒りだした僕に、雪梅はあんぐりとした顔で目をしばたたかせる。 そうだろう。僕はココまで感情を父様や雪梅にみせたことがなかったのだから。 「雪梅ばかりズルい!」 「れい、私がズルいって、どうして?」 怒る僕の肩を掴んで落ちついてと雪梅はいうが、僕は聞けなかった。いままでの我慢がいっ気にブチ切れてしまったのだろう。こうなったら、僕でも僕を抑えきれない。 「雪梅ばかり僕に甘えて、………僕だって、………雪梅に、………父様に、甘えたかった!!」 僕は目をしばたたかせて雪梅を睨んだ。ココまで雪梅が憎いと思ったこともなくって、嫌いで嫌いで心がどうにかなりそうだった。好きだって気持ちもぜんぶ空っぽになって、悔しくって雪梅の顔をみるのも嫌になって怒鳴り散らした。 「雪梅なんて嫌い!大っ嫌い!」 顔もみたくないと叫ぶと、怒った怖い顔をした雪梅が僕の腕を容赦なく掴んだ。そりゃそうだ、僕がココまで雪梅を拒絶したのは初めてなのだから。 「触んないで!!」 どんだけ雪梅が怖い顔をしてもいまの僕は怯まなかった。雪梅に嫌われても要らないといわれてもまったく平気で、いや、むしろ嫌われて捨てられた方がせいせいして気分がよかった。 「れい!!」 ガシンと壁に叩きつけられる拳が、なわなわと震えているのがみえた。相当、僕を殴りつけたいんだと思った僕は、わざと雪梅の頬を叩いた。ほら、僕を殴れとばかりに顔をつきだすと、お尻辺りがじぃわっと温かくなって僕が座っていたところのシーツが真っ赤に染まった。 なに?と思う間もなく、僕の身体が宙に浮く。雪梅に担ぎあげられたのだと気がつくまでかなり時間がかかって、僕がソレに気がついて暴れだすのと同じくらいにお腹から激痛が込みあげてきて、僕はあまりの痛さに目眩がして、そのまま雪梅の腕の中に沈んでしまった。  

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