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  執事長は僕の目線からでも天夢の顔がみえる場所に布団を敷く。ソレは、天夢の視線からでも僕がみえる位置に置いているということだ。つまり、僕のためじゃなく、天夢のためなのだ。僕のために動いた試しがないと、いたたまれない気持ちになって、僕は執事長をみた。 「……せ、」 といいかけて、突然、頭が割れるような頭痛が起こった。どうして、セバスという名前を忘れていたのか、執事長のことを「清」と呼んでいたのか、壁際にいるあの男はと思ったら、なおさら、頭が割れるようにガンガンと鐘の音が鳴った。 当然、僕は眉根を潜めた。どんどんと顔色も悪くなって大量の冷や汗まででてきて、呼吸がどんどん荒くなっていく。そんな僕の急変に執事長が直ぐにナースコールのボタンを押した。 近くにいた天夢が心配して僕の頭を撫でる。そんなことをしても頭痛が軽減されることはないのに、天夢は小さな手で、いたいのいたいのとんでいけとなん度も僕の頭を撫でいた。 「かあさま、だいじょうぶ、ぼくがいる。ぼくがなおしてあげるから」 なかないでと、医師のようなことをいうから僕は天夢の手をぎゅっと握った。すると、天夢は僕の頭をぎゅっと抱きしめて、チュッとキスを落とす。その柔らかい唇はとても温かくって安心できた。 「……天夢、……もっと、……チュッとして……」 強張るようにそうせがむと、天夢は優しく笑って僕の頬に手を添えるとチュッと僕の唇にキスを落とすのだ。バードキスに似たリトルキスは、僕の心をしっかりとわし掴んだ。すべてを囚われたように、僕はもう天夢のことしかみえていなかった。 「………っん、て、……ん……」 僕は天夢を抱きしめた。動くハズがない筋肉が動きだして、動くハズがない身体が動いたのだ。ソレに驚いたのは、ナースコールで呼ばれた雷梅だ。執事長は雷梅に似た男を止めることに必死で、気づいていなかったようだった。 雷梅は診察するからといって、僕から天夢を引き離そうとするが僕が泣いて嫌がったから、診察は天夢に抱きついたまますることになった。天夢が触れると頭の痛いのも治まって、強張った身体も柔らかくなった気がする。 「黎くん、どこが痛かったの?」 「頭」 僕はココだと前頭部を触って、天夢にも「ココ痛かったの」と撫でて貰おうと頭をつきだす。天夢は雷梅の顔をみて、触ってイイのかを訊ねていた。雷梅は私が触ってからねと先に僕の頭を触って、「どんな風に痛かった?」と訊く。僕は天夢の顔をみてから、割れるような痛さだったと応えた。 「セバスといおうとしたら、ガンガンって……」 すると、僕は思いだしたくもない感情までもがどんどんと甦ってきた。執事長は常に僕に冷たかったことや、そして、天夢ができて産まれたことから僕に優しくなったことを。ソレが悔しくって、僕は天夢をぎゅっと抱きしめた。 「セバスは僕のことが嫌いなんだ。僕とは話したくないんだよ」 僕がそう訴えると、雷梅はそうなのかい?と執事長の方に視線を向ける。執事長は、「申し訳ありません」と雷梅に謝るだけで、僕にはなんの言葉もかけてくれなかった。 やっぱり執事長は僕のことが嫌いなんだと悲しい顔をしたら、また頭が割れるような痛みが走って、僕は天夢に「頭、ぎゅうとして」とせがんだ。天夢に触れられると不思議と痛みが和らぐのだ。 天夢は僕の頭をぎゅっと抱きしめて、かあさま、だいじょうぶ?と僕の頭を優しく撫でてくれた。ソレをみて、雷梅は溜め息をひとつ吐いて、執事長に向かって手招きをする。 「清、こっちにきて黎くんに謝って」 強い口調でそう執事長にいって、執事長は雷梅ではなく、雷梅に似たもうひとりの男の方をみた。その男は首を横に振るばかりだったが、雷梅はその男に向かって声を荒げた。 「解った。黎くんが苦しんでもイイだね。もう二度とこの頭痛、治らないよ」 男は目を伏せるだけで、執事長の方がソレは困ると慌てだした。雷梅は、「なら、謝って」と指で指し示す。執事長は僕に近づき、僕にこう謝った。 「黎様、申し訳ありません。私は黎様を嫌ってなどおりませんよ」 と。僕は天夢の腕の中からちらっと顔を覗かせて執事長をみる。天夢はニコニコと笑って、仲直りは握手をするモノだよと僕の手と執事長の手を無理やり握らせた。 「よかったね、かあさま♪」 天夢は物凄く嬉しそうに笑うから、僕は嬉しいと執事長に抱きついた。執事長は少し照れた顔で、「私も嬉しいです」と応えていた。  

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