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「はーい、じゃ、仲直りしたところで本題の診察に移ろうか?」
雷梅は手を叩いて、僕から天夢と執事長を引き剥がす。さっき、天夢を引き離そうとして嫌がったハズなのに、いまはそういう気持ちがなかった。不思議と心が軽やかで、大人しく雷梅の診察を受けた。
「黎くん、手とか足とかの痺れってある?」
起きあがろうとする筋肉や抱きしめる筋肉もないハズの身体が、ココまで自由に動くことはないと、不思議がっている雷梅だったが、僕の身体に起こった現実をちゃんと受けとめているようだ。急に動かせたことに反動がないか聞いているようで、無理に動かさないことを約束させられた。
少しでも身体が動くと無意識に身体を動かそうとする指令が脳からでるらしく、僕が思うよりも早く疲れてしまうらしい。体力も低下しているから、極力休むことに集中して欲しいともいわれた。
「ソレはないけど、下腹部や爪先が温かい」
「温かい?感覚があるの?」
「うん、動かそうと思えば動くかもしれない」
僕はゆっくりと身体を半回転させて、ベットから足を下ろした。雷梅はコレは驚いたと投げだされた僕の足を触った。温かい感触が僕にも伝わる。触られているという感覚もあって、僕は爪先をぎゅうぎゅうとさせた。
「明日、精密検査をしようか。もし、なんの問題もなかったら、歩くリハビリをするかい?」
「ソレって、歩けるっていう意味?」
「ああ、そうだよ。でも、ソレは精密検査で異常がなかったらの話だから…ね」
雷梅は決して、期待をさせるいい方をしない。ちゃんと、僕の今後を的確に説明する。良い方も悪い方も。
僕は頷いた。歩けるという喜びは大きかったが、ソレ以上に不安も大きかった。僕に厳しい執事長が僕から離れていきそうで。なぜ、そう思ったのか僕には解らないが、不安は大きくなるばかりだった。
ちらっと執事長の顔をみれば、よかったですね、黎様と嬉しそうに微笑んで、天夢にも同じことをいっていた。
「セ、バスは………、僕が歩けるようになったら、僕から離れていくの………?」
寂しいといえば、執事長はハッとした顔で僕をみるが、「せっかく仲良くなったのに………」と僕がつけ加えると顔を引き締め直した。
「ソレはありませんよ。黎様が望まない限り」
執事長は「黎様が歩けるように全力でサポートします」というと、天夢も嬉しそうで、「ぼくもおてつだいするね」と僕に笑いかけた。
壁際でひとり、眉根を潜めた男はおもしろくないという顔をしていた。どうして、彼はソコでいて、そんな顔をするのか解らなかった。ちらちらと僕が壁際でいる男に興味を持ち始めたことを、雷梅は嬉しいと思っているらしく、「黎くん、あの人のことが気になるかい?」と僕に聞いてきた。だけど、僕は気になるのに、なぜか「気にならない」と応えてしまっていた。
だが、雷梅はそんな僕を怒ることなく、「じゃ、気になったらいつでもいって」と僕の手を握る。その手が少し強張ったのは、雷梅に似た男が雷梅に向かって舌打ちをしたからだろう。
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