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  「へぇ~、ソレで天夢くんがみているにも関わらず子種を植えつけていたワケだ!」 雷梅が物凄く怒るのも無理はない。僕が長い眠りから覚めてまだ三週間も経ってないというのに、僕のお腹の中にはふたり目の子がいるのだから。 「おとついまでは雪梅の名前すら、解らなかったよね?どうして、こうなっちゃったかな!」 僕に向けられる刺々しい眼差しは医師としてではなく、張家の家長たる立場からくるモノで、本当に穴があったら入りたいというのはこのことだった。 「申し訳ありません。私がついていながら…」 執事長は雪梅の分まで頭を深く下げて、雷梅に許しを請っている。ココまで頭を下げさしてソレでも機嫌が治らないのは、雷梅の隣で「らいか、とうさまとかあさまをしからないで」という純粋無垢な汚れなき天夢が「ぼくをはやくおよめさんにして♪」と雷梅にねだっているからだ。 天夢が可愛いのは解るが、子供の恋愛に親が口だししたところでなにもかわらないと思う。だから、僕がいつまでも拗ねてないで機嫌治したらというと雪梅は重たい口を開いた。 「兄さん、いいじゃないか?もう適齢期も過ぎてんだから選り好みしている場合じゃないだろう?」 言葉の端々に刺があるのは可愛い天夢を取られたくないのだと思っていたが、そうではなかった。煮えきらない雷梅に怒っているようだったのだ。 「適齢期ってまだ三十の半ばだよ。医師ならまだ若鶏だ!」 「だが、スポーツ選手で言えばもう引退時期だ。先のこと考えないといけないんじゃないのか?」 呑気にそう返す雪梅は僕を抱えあげると、お腹の子に悪影響だと支離滅裂なことをいい始める。どうも天夢に甘いのは、彼が僕の遺伝子だけで出来ているからだろう。逆に雷梅にありがたく思え的なことをいっていることから、もう雷梅と結婚させるつもりでいるようだ。 天夢も天夢でココぞとばかりに自分のことをアピールしている。 「いいでしょう?ぼく、もうあかちゃんのつくりかたはおぼえたよ」 だが、ソレはもう幼児とは思えない発言をする。そんな天夢に、雷梅はたじたじだ。怒った顔で雪梅を睨み、だからといって、天夢に甘い雷梅もそう強く断りきれないでいるようであった。 「天夢くん、そういう問題じゃないから」 困った顔で察してとばかりに目を泳がすが、こういうときの天夢はやはり子供である。空気は読むモノではなく、吸うモノだと雷梅の言葉を吸い込んで噛み砕いてしまうのだ。 「そういうもんだいって、どういうもんだい?このまえは、そういっていたでしょう?」 ぼくがおおきくなってこどもつくりかたをおぼえたらおよめさんにしてくれるって、さ。あれは、うそだったの? ソレはもう天使のような可愛い顔を歪めて、天夢は僕の方にこの世の終わりだという顔をみせる。僕も天夢に甘いから、アレでちゃんと赤ちゃんできるから問題ないよといってしまう。 「黎くん、君までそんなこといわないで。ちゃんと天夢くんの将来を考えてよ」 雷梅はあんなに怒っていたのに、僕に助けを求めるようにいうのだ。 「う~ん、だけどさ。天夢の将来のことを考えるとっていわれたら、なおさら雷梅といっ緒になった方が僕としても安心なんだよね……」 親としては手近においておきたいっていうのあるじゃない?男の子ならともかく、天夢は女の子扱いといっ緒だしと唸りながら、思案すると雪梅が意外な顔をした。 「どうしたの?」 僕が雷梅の返事を待たずに雪梅に訊ねると、雪梅がああという顔でぼそぼそと呟く。 「ああ、れいはまだ子離れできないと思っていたから」 天夢にべったりとして、ソレはもう依存しているんじゃないかというくらい、天夢から離れようとしなかったのだ。確かにそういわれてしまったらそうなんだが、僕は雪梅をみて応えた。 「ん?そう?僕には雪梅がいるから、天夢には天夢の人生を送って欲しいと思っただけなんだけど」 歯切れ悪くそういうのは、目の前にいる雷梅がもう本当に勘弁してくださいという睨みを向けているからで、決して強がりではない。天夢は天夢で「とうさまとかあさまのおゆるしもでたよ。あとは、らいかのきもちひとつだけだよ?」とニコニコ笑顔で雷梅を脅迫していた。 僕は天夢も僕といっ緒で、オメガの要因を持っているから、もっとこう廃れた感じのひねくれた性格が表にでるのかと思ったが、そうでもないようだ。育てたのが我が儘アルファの雪梅だからなのか、オメガでもアルファ特有の小悪魔要素をがっつりと受け継いでいるようだった。  

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