29 / 109

29

   雷梅の助け船というよりもこの場合、タダ僕を見舞いにきたといってイイほど呑気な父様は、天夢と雷梅のやり取りを微笑ましくみていた。 「う~ん、こうもアルファの性格をがっつり受け継いでいるのをみると、育てる環境がいち番大事だという実証が立つね」 僕と雪梅にそういって、素直なイイ子に育ちましたと雪梅のことを誉めているのは、天夢がオメガということがあって、施設で育てるのか、実子として引き取るのかを雪梅ひとりで決めたからだろう。執事長も僕や雪梅が育児放棄をしても、あの大きな屋敷で育てるから心配はないといっていたから、施設に預けられることはなかっただろうが、ココまで父様に心労をかけたと思うと心が重たかった。 「父様、ご迷惑かけました」 父様にそういって頭を下げると、「なにをそう水臭いこといっているのですか?コレでも私は黎の親なんですよ」と、父様は下げた僕の頭を優しく撫でてくれた。こうやっていつまでも僕を子供扱いするのは、ソレだけ僕は父様に愛されている証拠なんだと思う。 「ありがとう。父様………」 僕がそうしんみりとしていたら、天夢がにょきっと立ちあがって、にょきにょきとタケノコが伸びるようなしなやかな動きで、身体全体をくねくねさせるとにかっと笑うのだ。 「あのね、おじいさま♪かあさま、ようやくとうさまとなかなおりをしたんだよ♪それでね、ぼくももうすぐお・に・い・ち・ゃ・んになるんだよ♪」 そして、雷梅の方をみて、「ぼく、らいかのおよめさんになれるようにがんばるからね♪」と嬉しそうに父様に話す。父様はちょくちょく顔をみせていたようで、「ソレはよかったですね。頑張ってください」とソレはもう満足そうに返していた。 ソレは子供の戯れ言だというモノではなく、父様も雷梅との番を望んでいるようにみえた。いまさらだが、目覚めて直ぐに子供ができたことはさほど驚いてはいないようである。 「雪梅くん、ありがとう御座います。黎を見棄てないでくれて」 父様はそうしみじみといって涙ぐむのだが、僕にはどういうことなのか解らないから、そうだったの?と雪梅と父様を交互にみた。 「そうですよ。黎がいますぐ離婚するといいだしたときなんかもう雪梅くん、鬼のように怖い顔でそんなこと許さないって毎晩セックス漬けで」 番を解除してと泣き叫んだときなんかは、暴れる黎を無理やり拘束監禁してセックス三昧だったですからと、なんだか物凄く酷いことをされていたことを平然と語る父様は、物凄くピントがずれているような気がするのは僕だけなのだろうか? そんな父様から聞いた話では、僕はこの五年間いち年置きに目を覚ましていたらしいのだ。だが、ことあるごとにヒステリックを起こして、スイッチを切るように眠るようになったらしい。その間の記憶がないのは、ヒステリックの後遺症というよりも重度のストレスによる記憶操作らしいようで、詳しくは解らないが「番」ではよくある話らしいのだ。 「父様、ゴメン。僕、コレからは雪梅を怒らせないようにするよ」 僕は怒らせた雪梅のことが怖くなってしまって、そう父様に謝罪する。すると。 「どうしたんだい?れいは私のことが怖くなってしまったのかい?」 雪梅が尽かさずそう訊いてきて、僕がううと言葉を濁らせようとしたら、僕の代わりに雷梅がさっと口を開いた。 「雪梅、仕方がないよ。黎くんは、ドラゴンの血筋をひいているんだからさ。他のオメガよりも起伏が激しいから、できるだけ雪梅と喧嘩をしたくないって思っちゃったんだよ」 雪梅にそういうと僕ではなく、父様がキョトンとした顔で、「どうして、ソレを?」と雷梅に聞く。雷梅は当然のようにこう応えていた。 「自分の遺伝子だけで生殖できるのは、ドラゴンだけだからね」 と。 学会でも黎くんと天夢くんは有名人だよといって僕の頭を撫でたら、天夢も尽かさず、雷梅に頭を差しだしていた。雷梅はううっと言葉を詰まらせたが拒否る理由もなく、渋々天夢の頭を撫でていた。 僕は雷梅も天夢のことを好きになったらイイのにと思いながら、雪梅に顔を向ける。 「雪梅、僕、ドラゴンの血が交ざってるからまた感情のまま雪梅のこと嫌いっていうかもしれない」 雪梅、怒んない?と首を傾げる僕に、雪梅は「ソレは、無理だよ。私は物凄く執着心が強くって、物凄く嫉妬深いんだ。だから、れいが好きだっていってくれるまで気持ちよく啼かさせてあげるよ♪」とソレはもう当然のように応えるのだ。 「ああ、やっぱりそうだよね。だけどさ、僕、雪梅とのセックスは気持ちがよくって好きだけど、しつこいのそう好きじゃないんだよね……」 「ん?どうしてだい?」 「だって、気持ちよすぎてセーブできなくなっちゃう。そしたら、僕、雪梅を手離せなくなっちゃうじゃない?」 もじもじとして、雪梅は会社にいかないといけないのに、いかせたくなくなると小声でいうと、雪梅は笑いだした。 「もしかして、ソレはわざと私を怒らせるようなことをしてしまいそうだといっているのかい?」 「う"、だって、僕、ずっと雪梅といちゃいちゃしたいもん」 我慢することをしなくてよくなった分、素直な気持ちが前にでる。ソレが、雪梅には嬉しいようで僕を優しく引き寄せると額に軽くキスを落とすのだ。 「じゃ、コレから毎日愛しあおう。会社にも毎日いっ緒にいこうか」 そして、家のことはセバスに任せればイイとまでいいだすのだ。  

ともだちにシェアしよう!