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「ハイハイ、勝手にいちゃいちゃするのは構わないとして」
天夢くんのこと真面目に考えて欲しんだけどと不機嫌になる雷梅の心情は、僕には解らない。
「ねぇ、なんでそう毛嫌いするの?」
だから、天夢の頭を撫でながら、どこにお嫁にだしても恥ずかしくないのにねぇと首を傾げた。
「あのさ、どう考えてもおかしいでしょう?三十路すぎのおっさんと幼児の組み合わせって」
雷梅は断固として年齢差を譲ろうとしないのは、東洋のよりではないからだろう。成人するまで結婚をよしとない考えは西洋よりだと思った。
「ん?でも、あと三年したら天夢も結婚できる年齢になるんだよ?」
「ソレは飽くまでも法令上で経済や肉体、精神的にはあり得ないことでしょう?」
もっとたくさんのことを経験して学習して、心や身体を養わないと。
雷梅のいいぶんも解る気がするが、僕はさらに首を傾げた。
「そういうなら、僕にも教養はないよ?だけど、僕は雪梅と番になって結婚できたよ?」
天夢とどう違うの?と僕は雷梅に噛みつく。我が子が可愛いのもあるが、僕もソレにあたるなら雪梅と結婚はできないハズなのだ。
「兄さん、諦めたら?」
雪梅も雷梅のいいぶんは理解できているが、僕との結婚を覆されたくないようで、雷梅にこう提案していた。
「恋愛に年は関係ないよ。好きか嫌いかどっちかしかないんだからさ」
と。だが、雷梅は眉根を潜めた。
「雪梅、そう簡単にいうが、俺は子供の手本になるような大人の頂点に立ってんだよ?」
自分の感情だけで推し進めることはできないんだと溜め息を漏らし、天夢には大人にはどうしても聞いてあげられないこともあるんだよと説得する。
天夢はなん度か瞬きをすると、顔を少し伏せてこう聞くのだ。
「ねぇ、らいか、それはぼくのことがきらいだからそういってことわってるんじゃないんだよね?」
「そうだね。天夢くんは俺からみてもとても魅力的で愛らしいよ」
素直な気持ちなのだろう。雷梅の表情が和らいでいたから。
「そう、わかった。らいかとけっこんすることはあきらめるよ」
天夢は顔をあげて笑った。
「………天夢くん………、ゴメン………」
「いいよ、らいか。らいかがぼくのことをきらっているわけじゃないっていってくれるだけで、ぼくはうれしいから」
だから、ぼくがらいかのことがすきだってことをわすれないで、おながいと天夢にしたら、物凄く聞き分けがイイような言葉を雷梅にいうから、僕の方がイライラしてしまう。
「──天夢、そんなこと………」
「いっていいんだよ、かあさま。ぼくはがまんしているわけじゃないじゃら」
そう微笑んで、「こいはね、かけひきがだいじなんだ。おしてだめならひいてみないと」と天夢はひと差し指を立てて、僕にそういう。僕はそういう駆け引きみたいなことを知らないから、天夢はお利口さんだなんだと感心したら、雷梅が肩を落としてそうなんだと本当に悲しそうな顔をしていた。
雪梅が育てただけあって、諦めがまったくない天夢は「だいじょうぶ。ぼくはらいかとはけっこんしないってやくそくはちゃんとまもるから」と、肩を落とした雷梅の頭を撫でていた。
「ところで、らいか、どうぶつえんはいつごろいけそうなの?」
思いだしたように雷梅に聞くのは、僕の主治医だからだろう。
「え、あ………、いっ週間くらいあとかな?安定期に入れば動いても大丈夫だから」
意表を突かれた感じの顔で雷梅が応えると、雪梅が週始めの日に行こうか?と天夢を誘っていた。天夢もわーいと諸手をあげて喜んで、「かあさま、ぼくね、ぞうさんがみたいんだ」ともう雷梅を困らせるようなことはいわなくなっていた。
僕はなんだか寂しい気持ちになって、雷梅をみると雷梅の方が物凄く寂しそうな顔をしていた。執事長は、そういうモノですという感じで、天夢様のことは私にお任せくださいませというのだ。なんだか僕だけがひとり我が儘をいっているようで申し訳ない気持ちになるのだが、心はソレを良しとしてくれなかった。
「れい、気分が悪くなったのかい?」
雪梅がそういって僕の顔を上から覗き込んでくるけど、天夢のことを思うと素直にそうだといえなくなっていた。雷梅は僕以外の巡回もあるから、直ぐにでていってしまったが、残った看護師が僕の様子を窺うように覗き込んできた。
「そうですね。少し顔色が悪いようなので横になってみてはどうですか?」
吐き気とかそういうモノがあればいって下さい。直ぐに主治医を呼んできますといって、僕の腕に刺さっている点滴の微調整をすると執事長となにか話してでていった。
天夢は備えつけられている長椅子に腰をかけて、僕が寝るまで絵本を読んでくれるという。そんな僕は雪梅に寄り添って、瞼を綴じた。本当なら、ベッドにひとりだけで横になった方がイイのかもしれないけど、いまの僕は雪梅の温もりを手離したくなかったのだ。
「雪梅、ゴメン……」
重たいだろうけどこうしていたいといえば、雪梅は気にすることないよといってくれて、ああ、僕はなんて我が儘なんだろうと思った。たくさん雪梅に愛されたいと思っても、僕の片割れが幸せにならないと思うと胸の奥が傷んで苦しかった。
ソレでも身体は疲れているらしくうとうとと意識が淀んで、深い眠りへと落ちていく。そして、この先の闇は危険だと察知しても、ソコに僕の欲しかったモノがあるんだと思うといかないワケにはいかなかった。だから。
「大好きだよ…………、雪梅、…………天夢………」
そういって意識を手離したのが、僕の最後の記憶だった────。
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