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「黎様、お召しモノです」
屋敷に到着した執事長はそういうと僕の身体に白いローブのようなモノを羽織らせた。着ていた服は精液でべとべとになっているのだろう。雪梅にもなにか羽織るモノを渡していたから。
「………っか、………ぁらっこ……」
少しでも雪梅と離れると不安になるこの心はなんだろうと思いながら、僕は雪梅に向かって諸手を差しだしていた。雪梅は相変わらず無表情で能面みたいな顔をしている。時おりみせるあの表情が嘘のようで、僕は雪梅に抱きつく。
「我慢性がないね。明日から出社なんだけど、コレじゃ会社にもいけないかもね」
雪梅は困ったというわりには、なんだか愉しそうである。しかも、僕がいっ緒にいくとごねるともう本当に嬉しそうだった。だが。
「いっ緒にいくのはイイけど、印綬のみ張りをしなくてもイイのかい?」
そう囁いて雪梅は僕を抱きあげた。印綬って?と首を傾げて、僕は口にする。
「……印綬?」
「そう、金庫にしまってある私の印綬だよ。私がれいに飽きて棄てるようなことがあったら、どうするんだい?」
飽きる?棄てる?どうして?と目を大きく拡げるとあの光景が脳裏に浮かんだ。まさかと僕が青ざめると雪梅の口端があがるのがみえた。
「………や、………ぁらめ…………!!」
僕はそう叫ぶと雪梅の腕から飛び降りた。執事長とメイドの間を走り抜けて、急いで雪梅の部屋に飛び込んだ。その後を執事長とメイドが大慌てで駆けつけてきたが、僕は金庫の中にあった印綬を掴んでいた。間取りも金庫の位置も暗証番号も夢のアレと同じだったから、造作もなかった。
「黎様、お離しください」
執事長が僕に怖い顔をするのは解る。コレがどれだけの価値があるのか、知っているからだ。家宝ともいえる印綬。雪梅と婚約したとはいえ、まだ僕は赤の他人。いや、無事に結婚できたとしても、ソレは生涯ずっと持続することである。僕はいまさらのように、血の繋がりがないことがこんなにも不安で恐ろしいモノだと知るのだった。
「ぃや!!ごないで!!」
僕はぎゅっと印綬を握りしめる。凹凸の鋭いソレは手のひらに喰い込んでいた。頑なに首を振って背をみせる僕に、執事長がゆっくりと近づいてくる。
「セバス、下がっていなさい」
遅れてゆっくりと入ってきた雪梅はそういうと、僕の顔をみて嗤った。執事長とメイドはドアまで下がると僕だけをみ据えた。いつでも動けるようにしているのだろう。
「ん~んと、正直いって驚いた。そっか、ココまでちゃんとリンクできてんなら、問題はないね」
口端を持ちあげて、さあ、どうするんだい?と雪梅は僕に次の行動を促してきた。僕は雪梅のいっていることもなにもかも解らなくなって、物凄く動揺していた。この人数では勝ち目がないも、同然。
印綬をココで死守したとしても、ソレは時間の問題だった。だったら、どうする。
僕は握りしめた印綬をさらに握りしめた。雪梅の焦りもない顔に、さらに僕は焦る。焦った僕は印綬さえなくなってしまえばイイという安易な考えで、後先を考えない行動にでた。
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