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  散る散る散る散る────。 花びらが舞うようにソレは空の高いところから散ってきた。 僕の最愛で愛悪のひとをつれて──。 「れい、目が覚めたかい?」 相変わらず、れいはお寝坊さんだと目ジワが深くなってきた雪梅が僕の唇に、キスを落とす。顔のあちらこちらにも小ジワができて、さらに男前に磨きがかかってきた。 僕は無償でソレを受け取って、身体を起こす。起こした先にある姿鏡に映る僕の姿はまだ歳いかぬ少年のままだった。顔も幼さを残すから、天夢やゆうよりもずいぶんと若くみられる。 ゆうこと、張結羽(ゆうう)は僕と雪梅との間にできた子で、天夢の弟だ。天夢は僕の遺伝子だけを受け継いでいるから、僕の分身ともいえる。だが、なぜだか解らないが天夢は年相応に育ち、同じ遺伝子で同じドラゴンの血を引いていても個人差が大きくでるようである。そんな天夢は僕と同じオメガだが、結羽は雪梅の遺伝子を半分受け継いでいるからアルファである。顔も性格も雪梅と同じだから、将来がとても楽しみだ。 そして、無事成人(十五歳が成人で煙草とお酒は十八歳、因みに結婚は男女とも八歳。オメガバースという異世界設定なので、日本ではないよその国のはなしです)できた天夢は晴れて雷梅と結ばれて(セックスをして)結婚することになった。あの日、雷梅と天夢の初キッス(でぃーぷちゅー)をホームビデオにおさめることができた執事長も大変喜んでいた。そんな長いようで短かった十年間は、もうあっという間に駆け抜けていった。 その天夢と雷梅の結婚式が今日だというのに朝からまったりと朝寝坊をする僕は母親失格だろうか。雪梅はそんな僕を抱き抱えて持ちあげながら、気分はよさそうだね?と優しく前髪を撫でて僕に再びキスを落とす。ソレりゃ、そうだろう。昨日のあの惨状を考えれば、こんなにまったりと落ちついている方が可笑しいことなのだから。 「──雪梅、ゴメン………、」 僕はもっとと顎を押しだして、口を大きく開けると舌を入れてとせがんで雪梅に抱きついた。やっぱり雪梅の匂いは毒だ。身体の芯から熱くなって、少し触れられただけで我慢ができなくなる。 「ダメだよ。自制がきかなくなる。今日は天夢の晴れ姿をみなきゃでしょう?」 我慢して、れいと雪梅は僕を制して、僕の首筋を撫であげると僕のうなじにかぶりついた。雪梅はこうやって毎日、僕が雪梅のモノだという刻印をつけだがる。そして、その刻印は吸引性皮下出血だと効果がないというのだ。 「はい、コレ飲んで」 持ちあげていた僕を担いでバスルームに運ぶ最中に雪梅から手渡されるこの錠剤は、あまり好きじゃない。甘い味もしなければ、なんの味もしない。そのうえ、無機物っぽいところが有機物っぽくなくって嫌いだった。 「抑制剤、飲まないとダメ?」 「うん、飲んで。そうじゃないと、れいは見境なく私を誘惑するでしょう。ああ、ソレとも天夢の大事な晴れ舞台を昨日みたいにぶち壊したい?」 意地悪くそういうのは、僕がいち番天夢に甘いからだろう。僕は彼の泣く姿はみたくない。彼が幸せなら僕も幸せで、彼から貰った愛はなによりも大事なモノだからなおさらである。 「頑張って、飲む………」 「ん、イイ子」 雪梅は天夢がしてくれるような啄むキッスはしてくれないけど、優しく微笑んでくれる。能面みたいだったあの無表情の作った顔と同じ人物だとは到底思えない。 僕は錠剤を口に放り込んでゴックンと唾といっ緒に喉を鳴らして飲み込んだ。水なしで飲めて、しかも即効性だから直ぐに効果が現れる。だが、僕は雪梅にしがみついて雪梅の匂いを嗅ぐのは、雪梅の匂いは毒でもあるけど薬でもあるからだ。 「れい、しばらく寝ててイイよ。お風呂と着替えは私がやってあげるから」 「………うん……、…ありがとう………」 副作用でくる吐き気と怠慢感はどうも耐えられないから、僕はいつもこうやって雪梅の匂いを嗅いで安心させる。本当はキスして抱きしめられてセックスすれば直ぐに気分はよくなるが、自制がきかずに昨日のように雪梅を抱き潰してしまうだろう。 野蛮で卑しい僕は、常に雪梅が欲しくって欲しくって堪らない。発情期になったらもっと最悪だ。いっときでも僕から離れようなら、癇癪どころでは済まされないからだ。暴挙の末、雪梅を拘束して監禁したこともある。雪梅に触れるモノすべてが許しがたくって、傷つけたり壊したりしたこともあった。だから、発情期になると執事長は天夢と結羽をつれて雷梅の屋敷に泊まりにいっていた。 そんなふうに僕が四六時中、雪梅を求めるようになってから、雪梅の会社にいく頻度が減っていた。社長から会長職に昇進したから自然とそういう方向に流れていったともいえるだろうが、大半は僕のせいであると思われる。 『僕をひとりにしないで』 そう雪梅に懇願したあの日から、僕はひとりになることを物凄く恐れるようになっていたから。  

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