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  「ああ、母さま、可愛い♪」 うっとりした顔で天夢がそういって、でかしたとばかりに結羽を褒めるのは、僕と雪梅のアンアンをホームビデオにしっかりとおさめたからだろう。 「天夢兄さま、この角度、物凄く撮るの大変だったけど頑張ったんだよ♪」 結羽も結羽で間近でみた興奮とそのアングルでうまく撮れていたという興奮とで、もうホームビデオにくびったけだった。そして、その横で僕と雪梅が正座をして雷梅に叱れているのも関わらず、大音量で僕がアンアン哭いているシーンばかりを再生する天夢と結羽は雷梅の雷が怖くないらしい。 「天夢くん、結羽くん、ちょっとだけイイからその音量下げてくれないかな!」 「ん?なんで?」 天夢と結羽は意味が解らないという顔で同時に首を傾げる。雷梅は当然、嘆息した。 「あのね、いま、俺はお説教をしてんの?みてて解るでしょう?」 なのに、天夢は眉根を潜めてこういい返す。 「うん、そうだね。だけど、僕たちには関係のないことでしょう?ソレに、音量を下げたら雷梅の声ばっかりで、母さまの声がまったく聞こえなくなるじゃない?」 と。結羽も天夢と意見が同じらしく頭がもげるくらい力強く頷いていた。雷梅は天夢に頭があがらないうえに甘いから、怒るに怒れないんだろう。握り拳を握って、どうにか抑えていた。 「じゃ〰さ、ヘッドフォンしてよ。ソレだったら問題ないでしょう?」 雷梅は備えつけのヘッドフォンを天夢と結羽に手渡すのだが、今度は結羽が眉根を潜めた。手渡されたヘッドフォンを握りしめてこういう。 「雷梅兄さま、ヘッドフォンは耳が悪くなるからってセバスに禁じられてんだけど、結羽はどうすればイイの?」 と。天夢は執事長には逆らえないから、結羽に向かって、「ソレは困ったね」とヘッドフォンが使えない結羽を不憫に思って、「じゃ、ヘッドフォン使わずにこのまま聞こうか?」と振りだしに戻る発言をするから、雷梅がいやいやと首を振る。 「結羽くん、少しの間だけなら大丈夫だよ」 だが、天夢が雷梅に怖い顔をして、「雷梅、そのちょっとがダメなんだよ。セバスはこういってた。少しの甘えがクセになるって。だから、使っちゃダメっていわれたら使っちゃダメなんだよ!」と、もっともらしいことをいうが、その大音量で聞いていること自体が耳に悪いと思う。 そんな僕はこっそりと正座を崩して、「雪梅、今度は雷梅がみてないところでヤろうね♪」と雪梅に耳打ちをしていた。雪梅も、「ソレじゃ、ペットごっこっていうのがあるからやってみる?」と僕に訊いてくる。 「ペットごっこ?」 そう僕が首を傾げたら、雪梅は丁寧に僕にペットごっこのことを説明しだした。 「そ、ペットみたいに首輪して、四つん這いになってお散歩したり、お皿だけでご飯食べたり、水のお風呂に入って身体綺麗にして、ボール遊びや泥んこ遊びをするんだよ。そして、ご主人様のためにせっせとセックスしたりもするんだ」 最後のせっせとセックスはよく解らないが、とにかく、愛ペットが飼い主にされることやすることなどをして遊ぶんだと理解した。僕は着飾った服を着せられるのかなと思っていたら、「ああ、私は自然派だから、服は着ないでね♪」ともうソレは爽やかにいわれてしまった。 「そ、……そうなんだ。……頑張るよ」 僕が歯切れ悪くそう応えていたら、雷梅が僕たちの話を聞いていたらしく、「黎くん、頑張らなくってもイイよ!」と物凄く怖い顔で否定された。 「まったくなんて話をしてんだよ。天夢くんが真似するっていたらどうするの!首輪だけでも真似しそうで怖いっていうのに!」 雷梅は思わず、説教の本音がでてしまったようでしまったと口を塞いだが、もう遅い。天夢がソレを聞きつけて、こういうのだ。 「雷梅ってそういう嗜好があったの?僕はさすがにそういう嗜好はないけど、雷梅がどうしてもっていうなら考えてあげてもイイよ?」 と。当然、雷梅はもうたじたじで、「天夢くん、誤解だよ!俺もそういう嗜好はまったくもってないって!だから、羨ましいとかそういうのもいっさいがっさいないから!」と、さらに自分の首を絞めて自爆していたとはいわない。そして。 「ああ、羨ましいかったんだ、兄さん」 雪梅のまったく悪気のないひとことで雷梅の説教が即座に終了したともいわない。 「雷梅兄さま?」 結羽が真っ白に燃え尽きた雷梅を心配して、天夢はその雷梅の世話をして、僕と雪梅はペットごっこのついて互いの方針を講じあっていた。 そして、不意に僕は執事長の姿がみえないことにいまさらながら気がつく。 「ねぇ、雷梅、セバスの姿がどこにもみあたらないようだけど、どうしたの?」 僕たちのハネムーンアーンを撮影するという任務に投じられているハズの執事長がどこにもいない。肝心の執事長がいなければ、ハネムーンアーンの企画はそくにお蔵入りになりそうで、僕は天夢が哀しむだろうと思った瞬間にまた可笑しなことに気がついて首を傾げる。 「ん?アレ?天夢たちって西海岸方面にいくっていっていなかったっけ?」 こっちって、南海岸だよね?と僕は飛行機の中にいるというのにいき先が南だと直ぐに解った。たぶんソレは、ドラゴンの血を持っているから帰省本能が働いているのだろう。この能力があるから僕はみた目と違って方向音痴ではない。 「ああ、セバスは今朝方みたホームビデオのせいで鼻血が止まらなくなってしまって、ソレに、天夢たちがいく予定だった西海岸方面が東海岸側と喧嘩したみたいで物資不足になっているらしく、急遽予定が変更したんだよ」 さっきしおり渡したでしょう?と座席の下に落ちているしおりを指差して、雪梅は「世の中平和だっていうけど、そうでもなさそうだよね」と喧嘩した理由が異文化の相違ではなくカップリングの相違だと聞いて、僕はそうだねと苦い顔をして頷いた。  

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