58 / 109
拾弐
そういう僕たちも飛行機が着陸するまでアンアンパコパコとしていたから、天夢の可愛い喘ぎ声は聞こえてこなかった。「ちょっと残念だったね」と雪梅にそういうと、雪梅は涼しい顔で「兄さんが天夢の声をひと声も漏らさないようにキスでもしていたんじゃないのか?」というのだ。「まさか」と苦笑いをする僕に、雪梅は「れい、執着心でいったら兄さんが物凄くダントツなんだよ」といったあと、僕でも知らなかったことをぼそりと吐いていた。
「天夢が筆下ろししたときは、もう本当に相手の子が可愛そうなくらいだったからね」
と。なに、ソレ?と首を傾げる僕に、雷梅は丁寧に教えてくれた。雪梅曰く、天夢が留学していたときにその留学先でイイ子をみつけたらしいのだ。そして、お互いにオメガってことがあったけど、好きあっていたから天夢はその子のことを責任もって抱いたらしいのだ。すると、天夢は可愛く哭くその子にもう夢中で、雷梅が好きだということを忘れるくらいだったという。
その話をどこでどう嗅ぎつけてきたのか知らないけれど、アレほど天夢とつき合うことを渋っていた雷梅なのだが、その子と別れるならつき合ってもイイといいだしたらしいのだ。だが、天夢はその子と結婚を前提につき合うつもりだといって、雷梅の申しでを断ったらしい。そして、天夢にフラれた雷梅はというと、あらゆる方法でその子から天夢を引き離して天夢のことを手に入れたらしいのだ。
「雷梅、物凄く大人気ないね……」
「そうだね、いっ歩間違えたら警察沙汰になっていたからね」
雪梅はそういって雷梅がいち番執着心が強いというのだけど、雪梅もどっこいどっこいだと思った。そう、もし僕が雪梅に惚れていなくって雪梅と無理やり結婚させられていたとしたら、僕は絶対に癇癪をあげまくっているだろうから薬つけにされて拘束された上に、雪梅に監禁されて飼い殺しにされていただろう。そう思うと物凄くゾッとする。
「ん?れい、私のことが怖くなったのかい?」
僕の考えていることをまた簡単にみ透かされてしまって、僕は雪梅にしがみついた。
「違うよ。また僕が雪梅のこと嫌いって顔もみたくないっていったらどうしようって……」
「ああ、確かにアレはさすがに堪えたよ。私のことが物凄く好きなのに嫌いだっていうんだからね」
そう、十五年前、雪梅のことが好きすぎて怒りのリミッターが外れた僕の心は、雪梅のことが嫌いで嫌いで大っ嫌いでいっぱいになっていた。雪梅の苦しむ顔がみたくて、僕は好きだという気持ちを捨ててしまっていたのだ。
あの状態で雪梅に抱かれていた僕は、物凄く苦しくって苦しくって死にそうなくらい苦しくって仕方がなかった。セックスも気持ちよくもなかったし、なによりも雪梅に触れられたすべての場所を切り刻んで捨ててしまいたいくらいだったのだ。
だから、僕はもうあんな苦しい抱かれ方はされたくなかった。ソレに、あんな腐敗した気持ちももう絶対に持ちたくないと思っていた。
「大丈夫、れい。今度はあんな酷い抱き方はしないから」
雪梅はそういっていそいそと僕に服を着せて、シートベルトをつけさせる。もう直ぐ、着陸体勢に入るようだ。
「そうだね、れいの心が壊れないように優しく大事に着飾ってさ、れいの大好きな私のディルドで毎日毎日可愛がってあげるよ」
皆がみている中で、私のディルドで悶え喘ぐれいは物凄く綺麗だと思うよとまでいわれたら、僕はもう雪梅から離れなくなってしまう。
「どうしよう。僕、いますぐにソレ、ヤりたい」
「そう?ソレじゃ、海岸線にある可愛らしいテラスでヤろうか?」
そう口にする雪梅はとても嬉しそうで、僕は早くこのシートベルトから自由になりたかった。自由になったら、雪梅にキスをしてうんと哭かされたいと思ってしまう。そして、いっぱい雪梅に愛されて僕も雪梅をいっぱい愛したいと思った。
飛行機はまもなく着陸して、僕たちは無事目的に到着した。だが、到着ロビーにいくと、なぜか鼻血が止まらず欠席扱いになっていた執事長に盛大に出迎えられていたとはいわない。
ともだちにシェアしよう!