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弐拾伍

  うっすらと朝靄が地に降り立ったころ、ひとつの影が山肌をかける朝日といっ緒にその山脈の頂上にその姿を映しだしていた。無垢な若鶏がざわざわと羽根を擦りあわせて、くるぅくぅくぅくぅと鳴き叫んでいた。 そんな新たないちにちが始まろうとしているとある部屋の片隅では、僕と雪梅のハネムーンアーンをサクサクと編集している執事長の姿があった。 そして。 「相変わらず、愛くるしい顔で哭かれますね」 そうひとりごちって、執事長は鼻の下を物凄く伸ばしていた。そう、執事長は僕のことが物凄く好きで好きで堪らないんだけど、そんな僕が雪梅にアンアンと哭かされるところの方がもっと好きで堪らないらしいのだ。ソレはもう変態の極みみたいに。いやもとい、ソレはもう変態の極みでしかなかった。 その変態振りは、編集動画といっ緒に再生されているこの動画をみればいち目瞭然である。 『……ん、あ、………らぁめ、………ん、あ、セ、……バス、……今、日わぁ、……あ、りがう……』 コレは、僕が頬を赤らめて雪梅に哭かされている最中に、執事長にお礼をいっているところだ。しかもだ、ソレは雪梅にいわされているところである。 『ほら、れい、もっとちゃんとセバスっていってお礼をいってあげないと。そんなんじゃ、セバスは足りないよ?』 そう囁かれた僕は物凄く身を震わせながら『………っぁ!……セ、バス……、んん、………セ、バス……、………あ、とう、………ぁ、がとぅ』と上擦った声でなん度も雪梅にいわされていた。 普通だったら、こんな映像なんかみても嬉しくはない。だけど、執事長は物凄く顔を緩ませて物凄く喜んでいた。また、この映像以外にもこんなところいつの間に撮っていたのだろうと思うようなところまでちゃかりと撮影して、執事長は僕の恥ずかしいマル秘映像をたくさん個人の観賞アルバムとして編集製作していた。 「ああ、ダメです~ぅ。はぁ~ん、物凄く堪らないです~ぅ♪あぁあぁん黎様♪」 身体をくねくねとさせて、執事長は画面に映しだされた僕に向かってキスをしようとしていたが、背後にいた雪梅に大いにしばかれていた。痛いと頭を押さえる執事長に雪梅は物凄く容赦なく罵る。 「セバス、変態のエキスが物凄く駄々漏れしているぞ!」 と。そうがなるのはよく解るが、僕のマル秘映像を執事長から奪って自分のスマホにコピー送信している辺りはどうかと思う。しかも、天夢や結羽にまでコピー送信して、元データーは消さずに確りと管理して置くようにとその執事長に託しているし。 だけど、このときの僕はベッドの中で爆睡中だったから、後日、雪梅にコレらの動画をみせられるまで知らなかった。  

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