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弐拾漆
「ソレで、兄さんは?」
そう聞くのは、僕よりも少しは学習能力を身につけた雪梅の雷梅と天夢への手向けだろう。そう、せっかくのハネムーンを邪魔するのも悪いと思っているのだ。いや、もとい、せっかくのハネムーンを返上してまで夫婦喧嘩に首を突っ込まれないように細心の注意を図っているのだろう。
だが、執事長はこういう。
「待機はできている。思う存分、夫婦喧嘩をしてくれたまへとのことです」
と。雷梅はもう執事長が世界トップシンガーであるエリック・ワールドのチケット(特別優待席)を手配していたことを知っていた。当然、雪梅は溜め息をつく。
「セバス、もっとこううまいぐあいにチケットの手配ができないのか?」
「そういわれましても、コレばかりはさすがの私でも無理ですね。履歴は消せませんし、張家であるかぎりずっとつきまとってくるモノです」
執事長がそういうのは、張家が世界でトップクラスの金持ちであるがゆえだ。僕や雪梅、雷梅でもどうすることもできない。
「まったく不便な世の中だ」
雪梅はぼそりとそういうが、この場合、僕たちがもっと学習能力を身につけたらなんの問題も発生しないことなのだ。だが、その最も単純で簡単な解決策があることを誰も口にしないのは、なんだかんだといって雷梅も天夢も僕たちの夫婦喧嘩を楽しんでいるからなのだろう。そして、このことを僕が知ることになるのはまだ先の未来のことである。
「雪梅様、そう嘆かないでください。デメリットがあれば、メリットもありますから」
そう執事長がいうのにはワケがあった。どこにいっても目立つだけあって、犯罪には巻き込まれないという徹底的なサポートが附属されているからだ。国際問題を引き起こすほど、この世界の人間は馬鹿ではない。
そう、どんなに争いで大きな金と動力が生まれるからといってもソレはいち時的なモノだと知っているからだろう。そして、永久的に争いが起こって膨大な収益があったとしても、ソレを維持し続けることが不可能だと解っていることだからだ。
だからといって、長いモノに巻かれろとまではいかない。ちゃんと不正は不正、公正は公正と認識ができている。だから、ケンカをしてもカップリングの相違程度で、被害にあうのはいつも紙とペンであった。
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