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参拾壱

  「…………ぁん!……………はぁん!…………ちぃい」 藤梅、もっとと、僕でも吃驚するくらいはっきりと言葉にしてねだっているからだ。藤梅はそんな僕にキスを求めてきた。僕も絡みつく舌に僕の舌を絡ませて、その気持ちに応える。 そして、驚くことに藤梅の熱く絡みつく舌も甘く美味しい味も僕がよく知っているモノだった。 「…………ァンン!………ぁめ、……っか!!」 僕は藤梅の首にしがみつきながら、そう応じた。ゆっくりと離れていく藤梅は、よくでしましたという顔で僕を眺めみるともういち度、深く僕にキスを落としてきた。そして、虚ろがかった僕の瞳に映しだされた真っ白な能面のような顔に笑みが溢れる。 「──れい、おはよう」 そう優しく僕を包み込む雪梅に、僕はなにが起こったのか解らないでいた。僕とキスをしていたのは藤梅だったハズなのに、と。 「ど、して?」 ゆっくりと景色までがはっきりと映しだされて、僕は首を傾げた。ハンブラーで固定されたハズの睾丸も、ピッグホールで拡張されていた肛門も、なにもかもがなくなっていて、そして、裸だったのに僕はちゃんと上半身、下半身ごと寝巻きが着せられていたからだ。そして、ソコにあったのは枷と鎖と首輪だけで、僕はきょとんとした顔で再び雪梅の顔をみた。 「ああ、れい、大丈夫。れいは物凄く怖い夢をみていただけだよ」 だけど、このまま目が覚めなかったらどうしようかと思った、と。 雪梅はそういうと僕になん度もキスをする。そのキスはとても甘くって熱かった。そう、このキスは藤梅とまったく同じキスで、だが、雪梅とも同じキスだった。 「ゆ、………め?」 名残惜しそうに離れていく雪梅の唇を目で追いながら、僕は呟く。同時に、あんなにもリアルで、いまだにちゃんと藤梅に抱かれた感触も残っているのにと思う反面、アレが現実なら僕は目の前にいる雪梅を裏切ったことになると、いまさらながら罪悪感が沸き起こって身体の奥から冷たくなっていた。  

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