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参拾弐
「そう、怖い夢」
怯える僕の言葉に雪梅もそういうけど、ソレはなんだか僕にそういい聞かせようとしているようで、僕は物凄く怖くなった。だから。
「……ちっ、がう!!」
コレは雪梅に試されているんだ、とはっきりと解ってしまった。そして、雪梅は僕が藤梅を受け入れたことに物凄く怒っているんだと思ったら、物凄くいたたまれない気持ちになってしまって自然と言葉がでていた。だけど。
「違う、違う違うっ!!ピッグホールもハンブラーも、セックス中にうなじを噛まれたのも、雪梅よりも巨根でずこずことされて僕の腸がソレが嬉しくってきゅうきゅうと哭いたのも、ソレが物凄く気持ちよくっていっぱいおねだりしたのも、ご褒美だってして貰ったキスだって、藤梅なのにとても甘くって熱かった!!」
僕は僕でもワケの解らないことをタダひたすら、雪梅に向かって叫んでいた。すると、雪梅が急にゲラゲラと声をあげて笑いだす。ソレも、可笑しいというアレで笑うモノだから、僕は顔を真っ赤にして激怒した。
「──笑わないで。僕は必死なのに。………こ、んなにもちゃんとぜんぶひとつひとつ、僕の身体が覚えてんのに………、アレがすべて夢だなんて───」
いわないで!!とそうがなったら、「可愛い♪」と僕を抱きしめるばかりで、雪梅ときたら僕の話をまったく真剣に聞いてくれやしなかった。僕は抱きついてくる雪梅を押し戻しながら、どうにか体勢を整えようとする。
「ちょ、雪梅、抱きつかないで!いっとくけど、僕は雪梅以外のひとと関係を持ったんだよ!そうやって嬉しがることじゃないんだって!」
「どうして?私が嬉しいと思ったからこうやってれいを抱きしめてるのに、迷惑?」
だけど、雪梅の腕力に負けて僕はしっかりと抱きしめられてしまった。雪梅の心音が聞こえてきて、僕の心がいまにも踊りだそうとしている。
「そうじゃない………っていうか、もう、どうして僕は物凄く怒ってんのに、そうやってまた嬉しそうな顔してんの!」
そう、あの嫉妬深い雪梅がこうもご機嫌なのが物凄く不気味なのだ。枯れかけた葡萄の木のようで、僕は踊りだそうとする心を必死に殺した。
「ん?れいは私がご機嫌なのが、嫌だっていうのかい?」
「あったり前でしょう!ね、ちゃんと僕のことを叱って!いま直ぐ、僕がだれのモノかってことをちゃんと解らせて!」
そういうと、僕の奥底に沈んでいたあの闇が舞い戻ってくる。空中で水蒸気が沸くように、ふつふつと沸きあがりながら。そして、ソコには静けさだけがあって、僕の身体が沈み込む。
「─────………お願いだから、雪梅、僕のことを雪梅以外のモノで埋めようとはしないで……」
そう淡々といい放った僕は虚ろんだ目をして、哄笑した。自暴が入った僕は厄介だ。だから。
「はっは、もう………イイや………───こんな僕なんか、もう要らない…………」
殺して。そう冷たく呟いていた。
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